退職後は物価の安い海外に移住し老後を送ることを考えている人も多いかもしれない。海外では国外からの退職者向けに長期滞在ができるビザを発行している国もある。今回は海外移住のメリット・デメリットや老後の移住先人気国トップ5を紹介する。
移住前に知っておきたい海外移住のメリット・デメリット
老後の移住を検討する前にまずは海外移住におけるメリットやデメリットを知っておきたい。実際に現地に渡航してから思わぬ落とし穴がある可能性も否めない。今回はネット上で実際の海外移住経験者の口コミなどからメリットとデメリットを挙げてみた。
海外移住のメリット 安い物価と住みやすい気候、日本と異なる文化など
海外移住のメリットはさまざまだが、アジア圏への移住なら物価の安さが挙げられる。移住する国によっては、年金収入のみでも日本で生活するより生活水準は高くなるかもしれない。また、日本にはない年中温暖な気候や自然を魅力に感じる人もいるだろう。日本での人間関係を気にすることなく、新しい言語や文化に触れ、刺激的な毎日を送りたいという人には向いているという。
海外移住のデメリット 治安や公共サービス、知人を頼れないなど
一方でデメリットは、治安状況や公共サービスが日本に比べて劣る場合がある点だ。また言語の壁や生活習慣の違いで重大なトラブルを招く可能性もある。治安や言語に対し大きな不安がある人はかえってストレスになることもあるため移住に対しては慎重に検討しよう。家族や親しい友人とも距離が離れてしまうことで、トラブルの際に知人を頼りにくいこともデメリットとして挙げられる。
老後移住の注意点3つ 医療、マネープラン、送金方法
海外移住にはメリット・デメリットの両面があるが、これから紹介する3つの点は特に慎重に調べておきたい。これらについて情報収集を行っておくことで実際の海外移住の快適さは異なってくるだろう。
注意点1,医療保険制度などの医療事情について確認する
1点目は公的医療保険制度などの医療事情だ。医療保険に加入できないと医療費が全額自己負担になり、支払いが高額になる。移住先に公的医療保険制度があるか、外国人でも加入できるか、また加入できたとしても医療費自体が高額でないかなどは確認しておこう。
注意点2,マネープランを事前に建てておく
2点目は安全のためのマネープランである。例えば、日本の医療機関を利用するために日本の住民票を残しておくと住民税がかかる。また比較的安全な地域や住居に住むとなれば、より住宅コストは上がる。物価の安い国でも安易な資金計画で移住すると思わぬ出費があったり、予想とは違った移住生活を送ることになったりするかもしれない。
注意点3,生活資金の送金方法について確認する
3点目は生活資金の送金方法である。現地でカード類が使えればいいが、使えなければ日本から現金を持参するか送金する必要がある。外国送金処理となれば、手数料や為替手数料が発生する。これらの費用も十分に調べ、必要であれば手数料が安いネット銀行などの利用も考えよう。
老後の海外移住で人気の国ランキングTOP5 1位はマレーシア
一般財団法人ロングステイ財団が発表した調査によると日本人に人気の長期滞在国のランキングは以下の通りである。(一般財団法人ロングステイ財団「ロングステイ希望国・地域2018」より)なお、外国為替は2020年1月時点のレートを採用しており、移住最低費用は滞在のために必要なビザ取得費用だ。
1位:マレーシア……移住最低費用約1,378万3,000円
マレーシアは、ロングステイ希望国・地域で2006年から1位を守り続けており、近年日本人に人気の移住先である。住環境がよく物価が安いことに加え、治安が比較的よいこと、食べ物が日本人の口に合うなどが人気の理由だ。ただ国民の6割をイスラム教徒が占める国であるため、文化やマナーの違いには気をつけたい。
マレーシアへの移住のための人気ビザは「MM2H(マレーシア・マイ・セカンドホーム)ビザ」だ。年齢制限はなく誰でも申請でき、最長10年(更新可)の長期滞在が可能である。
マレーシアへの移住ビザ取得に必要な条件は、以下のようになっている。
【ビザ取得に必要な条件】
・ビザ取得費用
(1)ビザ代金1年90リンギット(※通常は10年分発行のため900リンギット)
(2)JPビザ代金500リンギット(※日本人は発行必須)
(3)セキュリティボンド代金1,000リンギット
・50歳未満の場合
(1)財産50万リンギット(約1,345万円)以上
(2)月収1万リンギット(約26万9,000円)以上
・50歳以上の場合
(1)財産35万リンギット(約941万円)以上
(2)月収1万リンギット(約26万9,000円)以上
(※1リンギット=26.9円、レートは2020年1月15日時点)
2位:タイ……移住最低費用約292万6,000円
「微笑みの国」とも呼ばれるタイ。首都のバンコクではBTS(高架鉄道)やMRT(地下鉄)など交通の便も充実してきており、日本と比べ遜色ないとも言われている。多くの日本企業が進出し、日本ブームともあいまって日本人にとってはなじみやすい環境だ。家賃や生活費が日本より安く、日本では高価なエステやゴルフなどもリーズナブルに利用できる。
退職者向けのビザとしては、「ノンイミグラントビザ-O」を取得することで1年間タイに滞在できる。タイ国内での延長も可能だ。
タイの移住ビザ取得に必要な条件は以下のようになっている。
【ビザ取得に必要な条件】
・ビザ取得費用
(1)マルチプル1年ビザ2万2,000円
・1+2~4のどれか1つが当てはまる必要がある
(1)50歳以上であること
(2)預金残高80万バーツ(約290万4,000円)以上
(3)年金による月収6万5,000バーツ(約23万5,000円)以上、または年収80万バーツ(約290万4,000円)以上
(4)預金残高と年金による年収80万バーツ(約290万4,000円)以上
(※1バーツ=3.63円、レートは2020年1月15日時点)
3位:ハワイ……移住最低費用約5,495万円
日本人にとってはリゾート地として真っ先に思い浮かぶハワイは、移住地としても人気だ。マリンスポーツやゴルフなどのレジャーが充実しているほか、ショッピングモールやブランドショップなども建ち並ぶ。レジャーと生活環境のバランスがいい場所と言えるだろう。
治安は比較的よいと思われているが、窃盗事件は少なくないので注意が必要だ。またハワイの物価は総じて高めである。
ハワイへの移住にはアメリカのビザを利用することになる。ただし、長期滞在に向いているビザというとスポーツ選手や官僚など特定の職業や立場の人に特化しているものがほとんどだ。
アメリカでは90日以内の観光等を目的とした滞在であればビザは不要なので、老後のハワイへの移住を考えるなら1年のうち数ヵ月をハワイ、残りを日本と季節によって住み分けるのが現実的かもしれない。
だがどうしても長期滞在をしたいという方は「EB-5永住権プログラム」が比較的永住権が取りやすいといえる。このプログラムはアメリカの地域企業の発展を目的とした永住権取得プログラムで、海外投資家を対象としている。
永住権の取得に必要な条件は以下のようになっている。
【永住権取得に必要な条件】
- アメリカ移民局によって雇用促進地域に指定されている地域へ最低50万ドル(約5,495万円)を投資する
2年以内に10名の米国人を雇用する(間接雇用も可)
(※1ドル=109.9円、レートは2020年1月15日時点)
4位:フィリピン……移住最低費用約128万2,000円
年間を通して温暖な気候のフィリピン。近年治安が改善されてきたこともあり、日本からの移住先として人気が高まっている。特に東南アジア有数のリゾート地として知られるセブは観光産業が発達しているため、ショッピングモールや高級コンドミニアムが多数ある。都市部は目覚ましい発展を遂げているが、日本と比べると物価もまだ安いといえるだろう。
安全面はエリアによって差があるが、日本ほど治安はよくない。また、水道水が飲用できないなど衛生面にも不安が残るが、それらに気をつければ楽しく少しぜいたくな生活ができるだろう。
長期滞在のためのビザは比較的取得しやすい。「SRRビザ」は基本的に滞在日数に制限がなく、35歳以上で申請できる。移住ビザ取得に必要な条件は以下のようになっている。
【ビザ取得に必要な条件】
・ビザ取得費用
(1)ビザ申請料1,400ドル(約15万3,0000円)
(2)年会費360ドル(約3万9,000円)
・35歳以上50歳未満の場合
(1)資産5万ドル(約549万円)以上
・50歳以上の場合
(1)資産2万ドル(約219万円)以上、または年金収入1万ドル(約109万円)以上
(※1ドル=109.9円、レートは2020年1月15日時点)
5位:オーストラリア……移住最低費用約46万円
広大な土地を持つオーストラリアも、日本人の移住先として長年人気である。都市ごとに違った気候、特徴をもち、シドニーやメルボルンのような大都会もあれば壮大な自然も多く魅力に富んだ国である。
オーストラリアへの移住には55歳以上向けに発給される投資家リタイアメントビザが発給されていたが、現在は新規発給が終了している。
長期滞在が可能なビザは、他に家族永住ビザ専門的な職業・研究目的などだが、取得要件は厳しい。例として「技術独立永住ビザ」の取得要件を挙げる。今後外国人シニアを受け入れるビザがどうなるかは注視しておきたい。
【ビザ取得に必要な条件】
・ビザ取得費用
(1) 基本申請料4,045オーストラリアドル(約30万7,000円)
(2)追加申請費(18歳以上)2,020オーストラリアドル(約15万3,000円)
(※1オーストラリアドル=75.9円、レートは2020年1月17日時点)
- 申請時に18歳以上、50歳未満
- IELTSの点数が6.0以上
- 健康保険に加入している
- 無犯罪者証明書の提出
- 自分の職業がオーストラリア移民局の定める技能職業リストにある
- 申請日から過去2年間のうち1年間その職業に就いていること
老後に海外移住するなら事前準備を入念に
老後の海外移住に人気の国と、それぞれの国のメリット・デメリットを紹介したが、大切なのは事前準備をしっかりしておくことだ。現在物価が安い国でも自分が老後を迎える頃は物価がどうなっているかはわからないし、医療制度も変わっている可能性もある。自分が老後に何を求めるのかを考え、入念な情報収集をしておこう。
文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所)
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