ベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)の最高年齢が72歳に達した近年、遺産相続の時期に突入しつつある。特に米国や日本では、ベビーブーマー世代が空前の富を築いたが、それらは本当に相続されるのだろうか?

様々な調査の結果、遺産相続に積極的ではなく「子どもやほかの家族に遺産を残すよりも、自分にお金を使いたい」と考えているなどといった、ベビーブーマー世代の相続に対する価値観が分かってきた。

日本で遺産相続を具体的に検討している親は1割で、「資産は生きているうちになるべく使い、残った分を子どもに遺産相続させる」という親が8割だ。「全部使い切る」という親も1割いる。

「一度きりの人生を謳歌したい」米ベビーブーマー世代

富裕層動向調査会社ウェルスXが2016年に発表したデータでは、米国は6兆ドル、日本・ドイツはそれぞれ1.6兆ドル、英国は8300億ドル、ブラジルは5600億ドル相当の資産がベビーブーマー世代から次の世代に受け継がれると予想されている。 

バンク・オブ・ニューヨーク・メロンの投資アドバイザリー部門によると、米国のベービーブーマー世代は推定30兆ドルもの資産を保有しているという。しかしマネージング・ディレクターのガブリエラ・ガルシア氏は、「莫大な富の譲渡はあまり期待できない」とコメントしている(CNBC2018年5月22日付記事 )。

人生を思い切り満喫するために早期退職するベービーブーマー世代が増えており、「子どもやほかの家族に遺産を残すよりも、自分にお金を使いたい」と考えている親が増えているようだ。

日本の親も「遺産より自分の生活優先」?

高齢者情報サイト「グランズネット」が50~70歳の祖父母1000人に行った調査では、6人に1人が「生きているうちにお金を全部使い切る」と回答。リテール投資家情報サイト「ハーツ・アンド・ウォレッツ」の2016年の調査でも、50~60代の米国人5000人のうち30%が同様の回答で、「遺産を残すつもり」と答えたのは40%だった(フォーブス2016年1月21日付記事 )。

米国のベビーブーマー世代と比べると控えめだが、日本の親も「子どもに遺産を残すよりも、自分の生活を優先させる」という点は共通するようだ。

内閣府が2016年、大分県と熊本県を除く日本国内で暮らす3000人(60 歳以上)を対象に実施した調査では、47.5%が貯蓄の目的を「万が一の備え」 としており、「子どもや家族に残すため」と答えたのはわずか2.6%だった。

22.7%が「貯蓄が全くない」と答え、17.8%が「普段の生活を維持するため」、4.5%が「よりよい生活を送るため」と回答している。

生前贈与、日本での利用者は2割弱

日本では2015年1月に税制改革が実施され、相続税の基礎控除額が引き下げられた。そのため、生前贈与が注目を集めているものの、まだまだ躊躇する親が多いようだ。

フィデリティ退職・投資教育研究所が2017年に行った相続人に対するアンケートでは、51.2%が相続税の負担が重いと感じているにも関わらず、生前贈与の利用者は5000人のうち16.3%だった。ただし相続人が20・30代と若い場合、利用者は3割以上だったという。

回答者は過去5年間に、生前贈与を含まない遺産相続を受けたことがある20歳以上の成人で、相続額の平均値は3500万円、中央値は1000万円 とばらつきがあった。

遺産相続、日本の親子の温度差

遺産を譲渡する時期はさておき、日本の親子は相続についてどのように受けとめているのだろう。遺産相続を具体的に検討している親は1割しかいないことが、別の調査から明らかになっている。

旭化成やトヨタホームを含む住宅メーカー9社による共同プロジェクト「イエノミカタプロジェクト」の2015年の調査では、「子どもへの相続を考える」親は13%、「実際に相続税対策をしている」親はたったの6%。これに対し、「親が相続を考えている」と思っている子どもは23%、「親が実際に相続税対策をしている」と答えた子どもは16%と、子どもの方が相続税への期待が高い。

さらに75.4%の親が「資産は生きているうちになるべく使い、残った分を子どもに遺産相続させる」、10.3%の親は「生きているうちに全て使い切りたい」と答えている。「なるべく使わずに子どもに残したい」親は13.2%だ。こちらも「親はなるべく使わずに残してくれる」と考えている子どもが22.8%と親の回答率より高く、親より子どもの方がはるかに楽観的である現状が浮き彫りになっている。

相続について話し合ったことのある親子は22.8%。じっくりと話し合った親子は4.3%しかおらず、56.6%が全く話し合っていない。子どもから切り出したケースは24.3%、親から切り出したケースは59.9%だ。

ベビーブーマー世代の最大の恐怖は老後資金の枯渇

米国ではこうしたベビーブーマー世代の意向に対し、一部の若い世代からは「身勝手」「強欲」などという批判が上がっているようだが、ハーツ・アンド・ウォレッツの設立者ローラ・ヴァラス氏は、「子どもに遺産を残す親が、残さない親より寛大というわけではない」とコメントしている。

ヴァラス氏いわく、ベビーブーマー世代の最大の恐怖は、生きているうちに蓄えが尽きることだ。生活費だけではなく、高額な医療費も計算に入れなければならない。彼らにとって遺産相続は「究極の保険」であり、金額が大きくなればなるほど、退職後の資金に関連する決断に影響をおよぼす支出となる。

そう考えると、親が高齢になってから子どもに依存することなく、独立して生きて行ける道を選択するのも不思議ではないだろう。ヴァラス氏はこうした親の懸念を軽減するためにも、ファイナンシャル・アドバイザーなどの専門家に相談することを提案している。

文・アレン・琴子(英国在住フリーランスライター)/ZUU online
 

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