涙を見せられると弱い、という人は多いと思いますが、涙は見ている人にどんな影響を与えるのでしょうか?

9月2日に科学雑誌『Frontiers in Psychology』で発表された新しい研究では、アイトラッキング(視線追跡)技術を使って泣いている人の顔を見るときの視線を調査したところ、特徴的なパターンが見つかったと報告しています。

涙は、観察者の行動に変化を引き起こす独特の信号として機能しているようです。

目次

  1. 涙の効果を探る実験
  2. 涙を見るときの人の反応

涙の効果を探る実験

研究者たちが考えたのは、涙の存在が顔にあるとき、人の注視行動にどのような影響があるのかということでした。

人の視線がどこを向いているかを調べるアイトラッカーという機器がありますが、これを用いると、人の関心や興味がどこに向いているかを明らかにすることができます。

涙には人の視線を惹きつけて「共感を呼ぶ効果」があった
(画像=アイトラッキングで示される視線の動きと、凝視箇所のパターン。 / Credit:Alfonso Picó et al.,Frontiers in Psychology(2020)、『ナゾロジー』より引用)

これは主に、心理学や認知科学などの研究で利用されています。

そのため、アイトラッキングの調査から涙の機能を構築できるのではないかと研究チームは考えたのです。

研究には、30人の女子大学生の顔画像をサンプルとして用いました。

実験は彼女たちの顔画像のセットを被験者に提示し、視線パターンと感情的な強さ、誠実さなど印象の評価を行っています。

しかし、ここでは泣いている顔画像の涙は、デジタル処理によって削除しています。そして、逆に強い感情表現のない表情には、涙を描き足してみたのです。

また、画像には1行のセリフが添えられています。たとえば「私は浮気はしていません!」のようなものです。

被験者はそのセリフとともに画像を見て、感情の強さや、付随する発言に対する誠意の印象について評価を行ってもらいました。

被験者にはみな、アイトラッカーを装着しており、このときの視線パターンも同時に取得しています。

最後に、被験者の人格的特性が視線パターンに影響しているか調べるため、認知的共感性とパーソナリティ障害に関するテストを受けてもらい実験は終了です。

この実験の結果は、どうなったのでしょうか?

涙を見るときの人の反応

涙には人の視線を惹きつけて「共感を呼ぶ効果」があった
(画像=頬に涙があるかないかで、その印象は大きく異る。 / Credit:casnva、『ナゾロジー』より引用)

結果は、泣いている顔を見るときと、泣いていない顔を見るときの被験者の注視パターンには、明らかな違いが見られました。

まず、被験者は泣いている顔に対しては目の周りと頬、つまりは涙の目立つ位置を注視することが多くなり、また凝視する時間も長くなっていました。

これは涙が人の注意を引いていることを示唆しています。

さらに涙があると感情的に強いと判断され、より誠実であると評価されました。

この評価の違いは明確なものだった、と研究者は結果を強調しています。

顔画像の頬に涙滴が1つあるだけで、感情的な推論や誠実さの認識が大きく向上したのです。

漫画やアニメの表現では、ただ表情を描くだけより、汗を1つ描き足す、涙や効果線を描き足すことで、キャラクターの感情をより強調して表現します。

涙には人の視線を惹きつけて「共感を呼ぶ効果」があった
(画像=簡単なイラスト表現でも、涙の有無の影響は大きい。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

こうした表現に慣れ親しんでいる人からは、この結果は当然に思えるでしょうし、納得の行くものでしょう。

これは漫画固有の表現方法ではなく、現実の人間の表情に対しても有効な効果があるようです。

また、興味深いことに、こうした結果は被験者の性格特性に影響されていました。

被験者の共感スコアが高いほど、彼らは泣いている顔をより感情的に強く感じ、逆に泣いていない顔からは感情をより弱く感じたというのです。

共感性が高い人には、涙は感情を訴える手段として非常に有効ですが、逆に泣いていなければ、それほど必死ではないんだろうと判断されてしまうようです。

女性は共感性の高い人が多いと言いますが、小中学生の頃などを思い出して見ると、泣いている子に対する男子・女子の反応の違いには思い当たるところがあるかもしれません。

涙には人の視線を惹きつけて「共感を呼ぶ効果」があった
(画像=泣いている子に対する反応は人によってもいろいろ違う。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

またパーソナリティ障害(大多数とは違う反応や行動を取ってしまう精神疾患)の傾向が強い人は、泣いている顔に対して独特の視線パターンを示しました。

たとえば、反社会性パーソナリティ障害(社会の規範を破ったり、他人の権利を侵害することに罪悪感を感じない人)のスコアが高い人は、顔全体を注視する時間が長くなっていました。

そのため、涙のある領域を見る時間は少なくなっていたのです。

「この種の性格は、涙を見ない方法として、顔全体に視線的注意を高めているのではないか」と研究者は語っています。

性格特性が、涙への視線的注意の傾向に差を生むことの影響などは、脳波測定含めたもっと広範な調査を行ってみないと明らかなことは言えません。

しかし、共感性の高い人や、逆に社会性の低い人などで、涙に対する視線の注意が異なるというのは興味深い結果です。

「泣けば許してもらえると思ってるのか!」なんて言う人もいますが、やはり涙は自身の感情を伝えるために重要な役割を持っているようです。


参考文献

psypost


提供元・ナゾロジー

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