書く動作を思い描くだけで、スクリーン上に意図した文字が打てる技術が誕生しました。
スタンフォード大学により開発されたこの技術は「マインドライティング(Mindwriting)」と呼ばれ、脳に埋め込んだ電極が電気信号から書きたい内容を解読するというもの。
麻痺患者のコミュニケーション手段の一つとして期待されています。
研究は、5月12日付けで『Nature』に掲載されました。
目次
毎分90文字のマインドタイピングに成功!
実験では、麻痺患者の男性を対象に、研究チームが新たに開発した「BCIチップ」と「AIソフトウェア」を脳にインプラントしました。
BCI(脳-コンピューター・インターフェース)は、体が動かせない人や発話できなくなった人のコミュニケーションを回復できる技術です。
被験者の男性は、2007年に脊髄を損傷して、首から下の動きを失っています。
システムの動作手順としては、まず、男性が書きたい内容と書く動作をリアルに頭の中で思い描きます。
するとBCIチップに付いている100個の電極が、神経細胞の発する電気信号を拾い、それをAIソフトウェアのアルゴリズムが解読。
男性の意図する手や指の動きを読み取って、スクリーン上に文字として入力します。
被験者の男性には、手を動かして、紙にペンを当て、頭に描いた文字を書く動作の「試み」をするよう指示しました。
BCIは、機械学習の一種であるニューラルネットワークを使って、男性が文字を書く運動を試みた際の神経活動をリアルタイムでテキストに変換します。
その結果、男性は毎分90文字の速さ、94.1%の精度でのタイプ入力に成功したのです。
これまでの類似実験での最高記録は1分間に40文字でしたが、今回の入力速度はその2倍以上となっています。
また、男性と同年代の人々がスマホで文字を入力する速度は、1分間に約115文字なので、それほど遜色ありません。
英語のワード数で比較すると、男性は1分間に約18語、同年代のスマホ使用者は1分間に約23語でした。
これにより、一般人とほぼ同じスピードでのコミュニケーションが可能になると思われます。
今回の結果は、BCIが麻痺を発症してから長い期間が経過しても、患者の思い描いた運動をすばやく正確に解読できることを示すものです。
同チームの脳神経外科医、ジェイミー・ヘンダーソン氏は「この方法を応用すれば、脊髄損傷、脳卒中、ALS(筋萎縮性側索硬化症)によって身体の機能や発話能力を失った人々のコミュニケーション力を取り戻すことができる」と述べています。
その一方で、BCIを広く実用化するには、まだチップやAIソフトの寿命、安全性、有効性を詳しく実証しなければなりません。
研究主任のフランシス・ウィレット氏は「脳に電極を埋め込むリスクと費用に見合うだけの性能や安全面を確保する必要がある」と話しています。
参考文献
“Mindwriting” – Software Is Able to Turn Thoughts About Handwriting Into Words and Sentences
元論文
High-performance brain-to-text communication via handwriting
提供元・ナゾロジー
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