モジュールコンセプト「MQB」を採用し生まれ変わった「ゴルフ トゥーランTSIコンフォートライン」(アップグレードパッケージ装着車)を国内で試乗。その進化のほどは?
※2016年1月の記事を再構成して掲載しました。
2004年に初代ゴルフ トゥーランが日本で発売されるやいなや、私はそのコンパクトミニバンを購入した。常に7人フル乗車で使うとなると、荷室が狭かったり、サードシートへのアクセスが不便だったりと、いろいろ問題はあるのだが、ふだんは4人、たまに7人で移動するわが家のニーズにはぴったり。しかも、その走りっぷりは良い意味でミニバンらしくなく、まるでゴルフを運転しているような感覚だったところが大いに気に入って、ブルーとレッドの2台を乗り継ぐことになった。
それだけに、元オーナーとしては新型の登場をとても楽しみにしていたというわけで、さっそくその使い勝手からチェックすることにした。
元オーナーとして一番気になっていたのがセカンドシート。というのも、先代ではこの部分の使い勝手がイマイチだったからだ。
下の写真は先代の室内。先代はセカンドシートが3席独立式で、それぞれシートスライドが可能。また、荷室を広げたいときにはシートバックを倒して前方に跳ね上げたり、シート自体を取り外すことも可能である。
おかげで、荷室を広く使いたいときなどは便利だったが、シートを取り外すのが面倒だったり、取り外したシートの置き場に困ることも。また、サードシートに乗り込む際にもシートを前方に跳ね上げなければならないのも、使い勝手を悪くしていたのだ。
このあたりは途中のフェイスリフトで解決されることはなく、ようやく今回のフルモデルチェンジで改められることになったのだ。
下が新型ゴルフ トゥーランのセカンドシート。それぞれ独立してシートスライドやリクライニングが可能だ。先代でもレッグルームに余裕があったが、新型ではホイールベースが110mm延びたおかげで、シートを後ろにスライドすれば持てあますほど足元が広いし、一番前の位置でも前席のシートバックに膝が触れずにすむ。
また、全幅が広がったため、センターシートの幅が広がったのがうれしいところだ。
そして、使い勝手が格段に向上。セカンドシートはシートバックを倒すだけでフラットなラゲッジフロアが得られるようになり、また、左右シートにイージーエントリー機構が備わるおかげで、サードシートへのアクセスが楽になった。
前席後ろのテーブルは健在。一方、先代ではセカンドのセンターシートを倒すとテーブルやアームレストとして使うことができたが、新型ではフロアレベルに収納されてしまうので、代わりにセンターシートにアームレストが内蔵される。ただ、そのおかげでセンターシートのシートバックが硬いのが玉にキズだ。
コンフォートラインでアップグレードパッケージを選ぶとセカンドシート用に独立して温度調整が可能な3ゾーンフルオートエアコンが装着される。これはハイラインには標準である。
サードシートは、セカンドシートを少し前にスライドすればレッグルームは確保されるものの、大人が乗ると膝が立ってしまい、あいかわらず長時間の移動には向かないようだ。
下の写真はサードシート使用時のラゲッジスペース。奥行きは約35cmと狭く、7人乗車時にはほとんど荷物が積めないということになる。サードシートはあくまで子供用あるいは大人の補助席と割り切ったほうがいい。
サードシートを収納すれば、ラゲッジスペースの奥行きは約1mに広がり、また、室内高も高いことから荷室はこんなに広い。サードシートを使うことがないという人にとってもこの広い荷室は魅力的で、それだけでもゴルフ トゥーランを選ぶ理由になるだろう。
サードシートを倒した状態なら、トノカバーを装着して広い荷室を目隠しすることも可能だ。トノカバーを使わないときには床下に収納できる。ちなみに、コンフォートラインとハイラインにはトノカバーが搭載されるが、トレンドラインには用意されないのが残念だ。
下の写真は運転席以外の6席をすべて倒したときの様子。ラゲッジスペースの奥行きは、前席の背後までが約1.9mで、助手席側なら2.6m強の長尺物も積み込むことができる。
前席の収納も豊富。日本車のようにティッシュボックスのために専用スペースが設けられてはいないものの、ダッシュボード上には蓋付きの小物入れ、また、天井には"シーリングトレー"が2個設置される。さらに、運転席/助手席にはシートアンダートレーが用意される(ただし、トレンドラインではダッシュボードの小物入れのみ装着)。
助手席前には大型のグラブボックスが用意される。さらに、その上の蓋を開けるとCD/DVDとSDカードのスロットを備えたオーディオが収まっていた。
豊富な収納をチェックしたところで、1.4 TSI"ツインチャージャー"から"シングルチャージャー"にエンジンを変更した新型ゴルフ トゥーランの走りはどうだろう?
2007年のフェイスリフト以来、直噴ガソリンシステムにスーパーチャージャーとターボチャージャーを組み合わせたTSI"ツインチャージャー"エンジンを搭載してきたゴルフ トゥーランだが、今回のフルモデルチェンジを機に直噴ターボのTSI"シングルチャージャー"エンジンにスイッチ。これにより、現行モデルのなかでTSI"ツインチャージャー"を搭載するのはティグアンのFF仕様だけになった。
新型ゴルフ トゥーランに採用されるのは、1.4LのTSIエンジン。最高出力150ps/5000〜6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1500〜3500rpmのスペックは最新の「シャラン」と同一。一方、シャランが湿式多板クラッチの6速DSGを搭載するのに対し、ゴルフ トゥーランでは乾式単板クラッチの7速DSGが組み合わされている。
その性能を試すべく運転席に座ると、現行ゴルフに比べてよりシャープさが際立つコックピットが視界に飛び込んでくる。ディスカバープロとエアコンパネル部を分離したダッシュボードは、水平基調のデザインを採用したこともあって、旧型以上に室内が広く感じさせる。
試乗車はコンフォートラインのアップグレードパッケージ装着車。セーフティパッケージが未装着ということでマルチファンクションステアリングホイールが装着されないのがちょっぴり寂しい。一方、旧型ではステアリングホイールがやや"寝て"いたのに対し、新型ではより垂直に近づき、自然に向き合えるようになったのがうれしいところだ。
サポートの良いフロントシートから見る眺めは、いつものゴルフよりも少しアイポイントが高いが、より上質になったインストルメントパネルのおかげもあって、ミニバンの運転席にいるという感覚はすぐに薄れてしまう。
さっそく走り始めると、1.4 TSIエンジンはまずまずの力強さを示し、発進ももっさりした感じがない。同じ1.4 TSIを積むシャランに比べて1速のギヤ比はこのゴルフ トゥーランのほうがわずかに高いが、車両重量が260kg軽いぶんが余裕となって現れている。
街中では2000rpm以下で事足りてしまう一方、アクセルペダルを踏み込んでいくと2000rpm手前くらいからさらに力強さが増し、高速の合流や追い越しの場面で困ることはまずない。アクセルを全開にすれば6000rpm超の回転数まで加速が伸びるのも頼もしい点だ。
高速では80km/hを超えたあたりで7速に入り、100km/hの回転数は1800rpmほど。ハッチバックに比べると、エンジン音やロードノイズ、ボディの風切り音は少し大きめだが、ミニバンとしては優秀で耳障りというレベルではない。
ちなみに、首都高速と東名高速を乗り継いだときの燃費は16.3km/L。ストップ&ゴーの多い都内の一般道でも11.0km/L(いずれもマルチファンクションインジケーターのデータ)で、そのボディサイズや性能を考えるとまずまずの燃費といえる。
ところで、ゴルフ トゥーランといえば、ハッチバックに迫る走りの良さがウリのひとつだが、新型にもそのDNAは受け継がれていた。優れた高速安定性やフラットライドを誇る一方、ステアリング操作に対して自然に向きを変え、コーナーを抜けるときのロールもよく抑えられているから、安心してコーナーに飛び込める。この意のままに操れる感覚こそ、ゴルフ トゥーランの大きな魅力だ。
ただ、そのぶん乗り心地はやや硬めで、前席はいいが、セカンドシート、そして、サードシートと後ろに向かうにつれて路面のショックを拾いがちなのが気になった。このあたりは今後のランニングチェンジに期待したいところだ。
気になるといえば......今回の試乗車にはアダプティブクルーズコントロール"ACC"が装着されていなかったが、コンフォートラインでこれを選ぶにはアップグレードパッケージ(16万8000円)とディスカバープロパッケージ(21万6000円)にセーフティパッケージ(19万4400円)を組み合わせる必要がある。もう少し手軽にACCが選べるとうれしいのだが......。
......と、多少気になるところはあるものの、コンパクトミニバンとしての実力を十分感じ取ることができた新型ゴルフ トゥーラン。ふだんは4〜5人、たまに7人というライフスタイルにはピッタリで、元オーナーとしてもオススメできる仕上がりである。
(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Hiroyuki Ohshima)
提供元・8speed.net
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