目次

なぜアドバイスしたくなる?原因は「認知バイアス」にあり
アドバイスは与える側に利益がある
モンスターを飼いならす2つの方法
アドバイスでなく「コーチング」を

会社で何にでも口出しする「アドバイス・モンスター」は、誰の心にも潜んでいる。
(画像=credit: depotitphotos、『ナゾロジー』より 引用)

学校や職場などで、何かと首を突っ込み、アドバイスしてくる人に出くわすことがあるでしょう。

彼らは、話し合いや相談ごとに急に割り込んで、アドバイスを与えることに躍起になります。

そういう人を、心理コーチングの専門家であるマイケル・バンゲイ・スタニエ氏(53)は「アドバイス・モンスター」と形容します。

特に、職場のリーダー的立場にある人は、「積極的にアドバイスすることで自分の価値を示さなければ」と感じるものです。

その一方で、「アドバイスモンスターは、多かれ少なかれ、私たち全員の内に潜んでいる」とスタニエ氏は指摘します。

アドバイスをした経験は多くの人にあると思いますが、常に良い結果を生むとは限りません。不明瞭なアドバイスは相手を混乱させるだけですし、的確なアドバイスも(後述しますが)別のネガティブな問題を引き起こします。

では、アドバイスモンスターに乗っ取られるのを防ぎ、うまく飼いならすにはどうすれば良いのでしょうか。

なぜアドバイスしたくなる?原因は「認知バイアス」にあり

会社で何にでも口出しする「アドバイス・モンスター」は、誰の心にも潜んでいる。
(画像=credit: depotitphotos、『ナゾロジー』より 引用)

スタニエ氏によると、アドバイス・モンスターに乗っ取られやすい人は「認知バイアス」にかかっていることが多いそうです。

認知バイアスとは、思い込みや記憶の誤りなど、観察面で人が犯しやすい心理作用のことですが、ここでは、自身のアドバイスが実際より良いもの(あるいは、自分自身も実際より理知的で賢い)と思い込んでしまうことが挙げられます。

認知バイアスは、特別なものではなく、誰もが自分のスキルや能力を多少なりとも過大評価しています。

例えば、認知バイアスのひとつである「ダニング=クルーガー効果」は、自分の無知さに無知である状態を示します。そうすると、中途半端な知識に自信を持ったり、間違ったアドバイスを躊躇なく押し付けてしまうのです。

スタニエ氏は「アドバイスが正しいと自信があるほど、間違っている場合が多い」と指摘します。

その上で、自分の無知に気づいている人なら、アドバイスを求められた場合、「その問題について知識はあるが、とても複雑なので、一言では説明できない」という反応になるそうです。

アドバイスは与える側に利益がある

実は、これまでの研究によると、アドバイスの大半は、受ける側より与える側の利益になることが分かっています。

アドバイスを与えることは「頼られたい、尊敬されたい」という人の本質的な欲求を満たします。特に、アドバイスを求められた時ほど、その傾向は高まります。

その効果を調べた2018年の研究では、アドバイスを受け取りよりも与える方が、被験者のやる気を高め、自信を持たせることに繋がっていました。

そのドラッグ的な気分にハマってしまうと、アドバイスがやめられなくなり、内なるモンスターは肥大化していくのです。

モンスターを飼いならす2つの方法

それでは、アドバイス・モンスターを飼いならすにはどうすれば良いでしょうか。スタニエ氏が提示する2つの方法は実にシンプルです。

氏によれば、アドバイス・モンスターは誰にもありますが、その起動が非常に早い人がいると指摘します。そこでモンスターを飼いならすための第一歩は、アドバイス欲がどれだけ突発的に心の内に現れるかを知ることです。

自分で意識するようになれば、中途半端で無益なアドバイスを止めることもできるでしょう。

もう一つの方法は、受け手の気持ちを意識することです。

アドバイスの押し付けは受け手のストレスに変わるだけですし、アドバイスが正しかったとしても、その人の自立性や自分で考え行動する機会を奪ってしまいます。

例えば、職場でやたらとアドバイスをする上司や同僚は、威圧的に感じられて、受け手は発言しにくくなります。それでは、実りのある会議や話し合いも難しくなるでしょう。

アドバイスでなく「コーチング」を

会社で何にでも口出しする「アドバイス・モンスター」は、誰の心にも潜んでいる。
(画像=credit: depotitphotos、『ナゾロジー』より 引用)

これとは別に、スタニエ氏は、主に職場のリーダーに向けて、「アドバイスよりもコーチングを心がけるよう」述べています。

アドバイスは明確な答えを与えるものなので、会議や話し合いの時間短縮になりますが、長い目で見れば、良い人材を失うことに繋がります。先ほど言ったように、受け手の思考力や自発性を削いでしまうからです。

これに対し、コーチングは、答えを与えるのではなく、質問を投げかけます。「こうしろ、ああしろ」ではなく、「どうしたいのか、何をすれば解決するか」と問いかけるのです。

先行研究では、コーチングの実践により、チーム内のモチベーションや生産性の向上に繋がっていました。

一方で、スタニエ氏は「すべての行程をコーチングにする必要はない」と言います。時と場合によっては、アドバイスの方がずっとポジティブな効果を招くこともあるでしょう。

大切なのは「アドバイスを一方的に押し付けるのではなく、『私には効果的でしたが、あなたにもそうであるとは限らない。使えそうなら、使ってみてください』と受け手に判断を委ねること」だと言います。

アドバイスとコーチングをうまく使い分けることで、職場の空気をリフレッシュできるかもしれません。

提供元・ナゾロジー

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