年金保険料の支払いを滞納し続けるとどうなるのだろうか。年金制度への不安が高まるなか、支払いを放置する人や拒否する人が絶えない。日本年金機構も強制徴収を強化する流れにあり、最悪の場合は財産を差し押さえされる。
年金の「未納者」と「滞納者」の違い
年金保険料の滞納者がどのくらいなのかご存じだろうか。厚生労働省の発表によると、2018年度の国民年金の納付率は約68%だという。裏を返せば3~4割の国民が年金保険料を滞納していると考える人もいるのではないだろうか。これでは年金制度を信用できず、自分も払わないでおこうと考える人がいても不思議ではない。
しかしその考え方は完全に誤解である。ほとんどの国民は年金保険料をきちんと納付している。払わなくてはならないのに払っていない本当の意味の「滞納者」は公的年金加入者6,740万人のうち2%に過ぎない。
このような誤解が生まれる理由は、「未納者」と「滞納者」が混同されているからである。一般的に使われる未納者の中には、経済的理由による免除者や学生納付特例の対象者が含まれるケースがある。支払いを猶予または免除されている者は合計で574万人ほど存在するため、未納者の比率を大きく見せている。実際には、支払う必要があり、支払う能力があるにもかかわらず未払い状態である滞納者は157万人だ。(※2018年の厚生労働省年金局・日本年金機構『公的年金制度全体の状況・国民年金保険料収納対策について』より)
年金保険料を払う収入がありながら滞納している人が多数いるのだ。特に公的年金のネガティブな報道がなされるたび、「どうせ年金なんてもらえない」と保険料納付の拒否を表明する人が後を絶たない人もいる。
半年で9万人超が年金の滞納による強制徴収の対象
国民年金の保険料を滞納すると、日本年金機構より支払いを催促される。失職や低収入など経済的な理由がある場合は免除や減額の相談をすることができる。しかし十分な収入がありながら長期間滞納すると、強制徴収の対象になる。
強制徴収の対象になるかどうかの基準は定期的に見直される。2018年4月から9月までの6ヵ月間に実施された強制徴収では、「控除後所得額300万円以上」かつ「未納期間7ヵ月以上」が基準だった(2018年の日本年金機構『「国民年金保険料強制徴収集中取組月間」の実施について』より)。
控除後所得は給与から社会保険料や経費などを差し引いた金額なので、年収に換算すると400万円程度となる。年金保険料を払えないほどの貧困状態とは言えない。この基準に該当する滞納者は同期間で9万3,556人も存在したという。しかも、そのうち6,313人は控除後所得が1,000万円以上ある滞納者だというから驚きだ。
年金保険料の滞納は高所得者にもあり得ることであり、年金未納問題は決して他人事ではない。度重なる督促にも応じず支払いを拒否し続けると、延滞料が発生するだけでなく、最終的には財産の差し押さえもあり得る。おおまかな流れをみていこう。
年金の滞納から強制徴収までの流れ
年金保険料を滞納すると、年金事務所の対応は軽め催促から徐々に強めの催促に変わっていき、延滞金の発生から財産の差し押さえまで進行する。
⑴未納者への納付督励
国民年金保険料の納付期限は「納付対象月の翌月末日」となっている。期日までに納付がない場合、年金事務所から電話や訪問または催告状で納付を促す連絡が来る。この時点では納付忘れや振替用口座の残高不足の人が多いので、「保険料が未納になっています」とお知らせする程度にとどまる。
⑵特別催告状
それでも滞納が続く場合は、保険料の早急な支払いを通知する「特別催告状」が送付される。この特別催告状には、経済的理由で払えない場合の手続き方法や通知を無視し続けた場合強制執行(差し押さえ)もあり得る旨が記載されている。特別催告状は青(水色)→黄色→赤(ピンク)の順番に送られて来る。赤になると緊急度が高くなっており、無視し続けると悪質な滞納者と判断されるおそれがある。
⑶最終催告状の送付
特別催告状を送付した未納者から、さらに強制徴収の対象者が抽出される。現在は控除後所得300万円以上かつ7ヵ月以上の未納者だが、対象基準は徐々に厳しくなってきている。2015年の基準は控除後所得400万円以上かつ未納期間13ヵ月以上だった(2015年の日本年金機構『「国民年金保険料強制徴収集中取組月間」の実施について』より)。2018年と比較すると、所得基準はより低く、未納期間はより短くても対象とされている。
対象者には「最終催告状」が送付される。最終催告状とは、納付書とともに送付される催告文書で、このまま支払わないと滞納処分を開始すると明記されている。ペナルティなしで済むのはここまでだ。ちなみに所得の情報は各市町村から提供されているためごまかせない。
⑷督促状の送付
督促状には、納付が確認できない場合は財産の差し押さえする手続きを開始する旨が記載されている。財産の差し押さえは当人だけでなく世帯主や配偶者も対象となる。また督促の段階に入ると以下のペナルティが課せられる。
- 時効の中断
- 延滞金の発生
保険料を徴収する権利は通常2年で消滅するが、督促によって時効はいったん中断され債務はずっと残る。延滞金は納付期限の翌日から2.6%~14.6%まで上乗せされる。利率は期限から3ヵ月が経過するとぐっと高くなるので注意が必要だ。
⑸財産調査および差し押さえ予告
期限までに納付がない場合、年金事務所は滞納者の財産調査に取りかかる。取引先金融機関に預金残高の確認をおこなうほか、必要があれば取引先企業に売掛金等の債権がないかまで調べられる。根こそぎ持っていかれるわけではなく、生活の維持や事業の継続に必要な部分は残してもらえる。
⑹差し押さえ執行
財産調査の結果から、年金事務所は所有が明らかになった預貯金、不動産、家財、売掛均等債権の差し押さえをおこなう。現金や金融資産は速やかに収納される。不動産等は公売などにかけて金銭化した後に未払保険料にあてる。納付指導に従わないなどして悪質だと判断された場合は、徴収のプロである国税庁に委任することもある。2017年度の差し押さえ件数は1万4344件、そのうち54件は国税庁が出動している。
年金の滞納は自らの首を締める
厚生年金や共済年金に加入している人は年金保険料が給料から天引きされているので滞納とはあまり縁がない。会社員または公務員の被扶養配偶者である第3号被保険者も未払いになることはめったにない。年金の未納が問題になるのは、自営業や個人事業主、学生などが対象の第1号被保険者である。
第1号被保険者は自ら国民年金を納めなくてはならないので、天引きされている他の被保険者に比べて痛税感が高いのだ。年金制度への不満や不安が高まる中、保険料を払う能力があっても払いたくないと感じる人が増えるのは自然な流れかもしれない。
しかし結局は自分の首を締めることになる。年金制度は現加入者から保険料を集めることで成り立っている。集められる保険料が少なくなるほど破綻のリスクが高まる。国民年金は支払額に対して受給額が少ないと思われる一方、10年受給すれば元が取れるとされる試算もある。それでも心もとないなら国民年金基金や個人型確定拠出年金(iDeCo)を活用すると良いだろう。
十分な収入があるからと国民年金保険料を滞納して国税庁の訪問を受けるようでは、収入源である仕事や資産運用にも差し障りがあるだろう。経済的理由がある場合は担当自治体に免除や減額の申請し、そうでない場合はきちんと納付すべきだ。
文・篠田わかな(フリーライター、ファイナンシャル・プランナー)
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