「若いころに聞いた曲が今でも大好きだ」という人は多いでしょう。
自分が思春期だったときの「〇〇年代ヒットチャート特集」が取り上げられるとワクワクして聴き入ってしまうかもしれません。
イギリス・ダラム大学音楽部に所属するケリー・ジャクボウスキー氏ら研究チームは、比較的最近の研究で、大人が若いころに聞いた曲を好むのは、「その音楽が当時のポジティブな記憶と絡み合っているから」だと発表しました。
詳細は、2020年10月23日付けの学術誌『Music and Science』に掲載されています。
大人は思春期のころに聴いた曲を好むという調査結果
研究チームは、曲の好みと年代の関係性を知るために、18~82歳までの470人の成人が好む楽曲を調査しました。
参加者は、65年間(1950~2015年)にわたってヒットチャートに登場した111のポップソングから自分が好きな曲を選び、その曲を3つの要素で評価しました。
評価された要素とは、①どれほど過去の記憶を呼び起こしたか ②曲への親しみやすさ ③曲に対する好みの程度 です。
そして調査の結果、全体として、参加者が思春期のときにヒットチャートにあった曲は①と②の評価が高いと判明。
つまり思春期に聴いた曲は、いつまでたっても親しみやすく、懐かしい気持ちにさせる効果があったのです。
ちなみに、過去を思い出す効果が最も強かったのは、14歳ごろに聴いた曲だったとのこと。
さらに40歳以上の人は、③好みの程度 においても、他の曲よりも思春期の曲を高く評価しました。
しかし比較的若い年代である18~40歳においては、思春期の曲を好む傾向はそこまで強くありませんでした。場合によっては生まれる前にリリースされた曲の方が、評価が高いこともあったのです。
大人が若いころに聴いた曲を好むのは、鮮明な想い出と関連づけているから
調査結果をまとめると、どんな年齢の人でも「思春期に聴いた曲はその時の記憶と密接に絡み合っている」ことが分かります。
また、年齢を重ねるほど、過去の記憶と結びついた曲を「好ましく感じる」傾向があるようです。
そして研究チームは、この結果が、心理学で一般的に知られている「レミニセンス・バンプ(Reminiscence bump)」と一致していると指摘。
レミニセンス・バンプとは直訳すると「回想のこぶ」であり、「10代20代の想い出は記憶に残りやすい」という、人に共通する現象です。
この原因には若い時期に初めての体験が多いことや、生物学的およびホルモンの変化が関係していると考えらえています。
ちなみにレミニセンス・バンプは40歳以上で強化される傾向があり、年齢を重ねるほど若いころの出来事を懐かしく好ましいものとして感じるとのこと。
確かに研究チームが指摘するように、今回の調査結果の傾向と一致しています。
つまり、大人が若いころに聴いた曲を好むのは、単に「その曲が名曲だった」だけではなく、無意識により鮮明でポジティブな記憶と関連付けていたことが原因だったのです。
私たちは思春期の記憶を鮮明に覚えているので、その懐かしさを曲の良さにプラスして評価を高めていたのですね。
もちろん現代では、新旧関係なくどんな曲でも簡単に聴ける環境が整っています。
ですからこうした技術的な変化が好みやレミニセンス・バンプとどんな関連があるのか、今後も調査していく必要があるでしょう。
参考文献
Why We’re Obsessed With Music From Our Youth
元論文
A Cross-Sectional Study of Reminiscence Bumps for Music-Related Memories in Adulthood
提供元・ナゾロジー
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