脳のパフォーマンスとピークの時期については様々な考えがありますが、最近新たに参考にすべき研究結果が提示されました。

ドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン経済学部に所属するUwe Sunde氏ら研究チームは、10月19日付けの科学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に、2万4000以上のチェスの試合を分析した結果を発表したのです。

その研究によると、脳の「認識のピーク」は35歳に訪れ、10年ほど継続するとのこと。

目次

  1. チェスの試合からの脳のパフォーマンスを分析する
  2. チェスにおける脳パフォーマンスのピークは35~45歳
  3. 脳のパフォーマンスとは?

チェスの試合からの脳のパフォーマンスを分析する

“脳のパフォーマンスは35から45歳がピーク”だと判明、チェスの試合を分析した結果
(画像=人間のチェスとコンピューターのチェスを比較 / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

研究チームは、ある1つの方法で脳のパフォーマンスと、ピークが訪れる時期を測定しようとしました。

その方法とは、「人間によるチェスの試合とコンピュータが提示する理想的な手を比較する」というもの。

チェスは代表的なボードゲームの1つであり、試合に勝つには思考力や経験をフル活用しなければならないでしょう。駒の動きを予測しつつ限られた時間で自身の戦略を決定または修正しなければいけないのです。

チェスの試合における一手一手が脳のパフォーマンスと関係あるのは言うまでもないかもしれません。

そしてチェス界では1997年にコンピュータ「ディープ・ブルー」が当時の世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフ氏に勝利して以来、最強は人間ではなくコンピュータだとされています。

研究チームはこの背景に注目し、1890年以降のプロのチェスプレイヤーの2万4000以上の試合を分析することにしました。

そして、それらの160万を超える手とコンピュータによる「最適な手」を比較。

これにより、人間のチェスにおける脳パフォーマンスが、年齢ごとにどのように変化していくか明らかになったのです。

研究チームはこの脳パフォーマンスのピークを「認識のピーク(英: cognitive peak)」と呼んでいます。

チェスにおける脳パフォーマンスのピークは35~45歳

研究の結果、チェスにおける人間のパフォーマンスは20台前半まで急激に増加し、35歳でピークを迎えました。

“脳のパフォーマンスは35から45歳がピーク”だと判明、チェスの試合を分析した結果
(画像=「最適な手」を出した年齢グラフ / Credit:Uwe Sunde、『ナゾロジー』より引用)

そしてそのピークは45歳まで10年間継続し、その後少しずつ低下していったとのこと。さらに研究チームは、年代別のプレイヤーのパフォーマンスにも焦点を当てています。

彼らによると、過去125年間で、特に20歳未満の個人のパフォーマンスが向上したようです。

また1990年代には個人のパフォーマンスが急上昇していたとのこと。

“脳のパフォーマンスは35から45歳がピーク”だと判明、チェスの試合を分析した結果
(画像=「最適な手」を出す出生年代のグラフ / Credit:Uwe Sunde、『ナゾロジー』より引用)

研究チームは、これらのパフォーマンス上昇の背景に近年のチェスエンジンやオンラインプレイの普及があると考えています。プレイヤーたちは人生の早い段階でチェスの知識や経験を蓄えることができたのでしょう。

脳のパフォーマンスとは?

さて、ここでこれまでに多くの人が感じたであろう「脳パフォーマンスのピークは本当に35歳なのか?」という疑問についても取り上げましょう。

そもそも、今回の研究が示す「ピーク」を正確に表現するなら、「チェスにおいて、脳がコンピュータの答えと最も一致する年齢」となるでしょう。

コンピュータの方が人間より強いのは事実ですが、人間同士の対戦では必ずしもコンピュータのプレイを完全に模倣することが勝利に繋がるわけではない、との指摘もあります。人間とコンピュータではチェスに対する思考の仕方が異なるのでしょう。

また、さらに広い分野で考えると、このピーク年齢は参考程度にとどめておくのが良いかもしれません。

“脳のパフォーマンスは35から45歳がピーク”だと判明、チェスの試合を分析した結果
(画像=適切な判断にはチェスより広範な知識と経験が求められる / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

確かにチェスでは35~45歳をピークとしてとらえても良いでしょう。将棋や囲碁なども同様かもしれません。

ただし、これは64マス内で6種類16駒の最善な動きを求める限定的な脳パフォーマンスのピークです。

比較にならないほど多種多様な人々、性格、言語、経済、社会構造、感情などが含まれる人生の判断において、35歳が最も良い決定ができる年齢だとは限りません。

多くの分野ではすべてを計算できないため、知識や経験の蓄積が最善の判断を下すのにより役立つことでしょう。

また瞬発的な判断が必要とされる分野も、チェスのピークとは異なってくるはずです。

さて、このように脳のパフォーマンスは単純に計測することはできません。それでも今回の研究は、思考的な分野において力を傾けるべき時期を示しています。

特にチェスプレイヤーの方は人生を決定するための1つの基準にできるでしょう。


参考文献

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提供元・ナゾロジー

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