私たちのDNA構造と異なった系統のDNAが存在しているようです。

4月30日に『Science』に同時掲載された3本の論文によれば、私たちの地球には、異なる系統のDNAの塩基配列を持つウイルスが複数存在することが示されました。

これら奇妙なウイルスたちは塩基を記すアルファベットの「A(アデニン)」の代わりに「Z」を持ち、現代の地球環境とは異なる、高熱で過酷な環境に耐えることができます。

いった彼らはどこから来たのでしょう?

目次


DNAの塩基配列に「Z」を持つ複数のウイルスを確認!
「Z」の起源は地球外かもしれない
Zゲノムは初期の地球環境に適応していた


DNAの塩基配列に「Z」を持つ複数のウイルスを確認!

DNAの塩基配列に「Z」を持つウイルスが地球には200種類もいた
(画像=シアノファージウイルスは藍藻類に感染するウイルスで、ZTGC型のゲノムを持っている / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

現代の地球に生きる生命の設計図(DNA)は細菌・動物・植物を問わず、全て4文字のアルファベットで表される塩基「A・T・G・C」によって表現されています。

また細菌に感染することで知られるファージウイルスの場合も同様の4文字でDNAの塩基が表現されています。

ファージウイルスは細菌の自己複製システムを乗っ取って増殖するため、自らの遺伝子も細菌と同じ文字であったほうが都合がいいからです。

しかし1977年、当時のソ連の科学者たちは例外を発見します。

藍藻類に感染する、あるシアノファージのDNAでは、塩基の「A」が存在せず、代わりに「Z(2‐アミノアデニン)」が含まれていました。

つまり、通常のファージウイルスが「A・T・G・C」からなる遺伝情報をもつ一方で、この奇妙なウイルスは「Z・T・G・C」を基本に遺伝情報が描かれていたのです。

ですが発見当初、塩基が入れ替わっている理由や仕組みは不明でした。

そこで今回、研究者たちは3つのグループに別れ、塩基「Z」がどのようにして合成されるか、そして合成された塩基「Z」がどんな仕組みでDNAに組み込まれるかを調べました。

結果、塩基「Z」を作るには2種類の特殊な合成酵素(PurZとPurB)が必要であり、DNAに組み込まれるには独自の重合酵素(DNAポリメラーゼ:DpoZ)が必要だと判明。

これらを合わせて「Zゲノム」と名付けました。

しかし、真に重要な発見はその後に行われます。

Zゲノムを持つ存在はシアノファージウイルスただ1種のみだと考えられてきました。

ですが、Zゲノムを蓄積されたウイルスデータと照合を行った結果……なんとZゲノムが200種ものファージウイルスに存在することが明らかになったのです。

この結果は、Zゲノムを持つウイルスが、地球において独自の勢力を築いていており、宿主である細菌たちの中にもZゲノムを持つ一派が、高い確率で存在することを示唆します。

そこで気になるのは、その起源です。

ZTGC型のウイルスや生命は、多数派のATGC型から派生した枝に過ぎないのか、それとも起源からして異なる別系統の存在なのでしょうか?

「Z」の起源は地球外かもしれない

DNAの塩基配列に「Z」を持つウイルスが地球には200種類もいた
(画像=南極に落ちた隕石には塩基「Z」が含まれていた / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

Zゲノムの起源はどこまで遡れるのか?

研究者たちがZゲノムを構成する、塩基「Z」の合成酵素(PurZ)が、古細菌の塩基「A」合成酵素(PurA)と非常に遠い関係であることが判明します。

この結果は、Zゲノムが地球における生命発生の初期のころから、通常のDNAと並んで存在してきたことを示します。

さらに興味深い事実としては、1969年に南極に落下した隕石から、地球外起源であると推定される塩基「Z」が、雑多な塩基に混じって発見されているのです。

もし塩基「Z」が地球外に起源を持ち、最初の生命がこれを利用していた場合、ZTGC型こそが元祖であり、ATGC型が亜流という結果になります。

Zゲノムは初期の地球環境に適応していた

DNAの塩基配列に「Z」を持つウイルスが地球には200種類もいた
(画像=A-T間の水素結合は2本、G-C間の水素結合は3本、Z-T間の水素結合は3本。よってZゲノムは普通のゲノムよりも強固だが柔軟性の少ない作りをしている / Credit:Dariusz Czernecki et al . Nature Communications、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により、塩基「Z」をDNAの塩基配列に持つウイルスが、地球上に数多く存在することが示されました。

またZ塩基の合成やDNAへの組み込みに必要な一連の遺伝子群(Zゲノム)も明らかになります。

研究者の1人は、Zゲノムが太古の地球に存在していたとしたら、初期の生命に利点をもたらしたと考えています。

塩基「Z」は対になる塩基「T」との間に3本の水素結合を作ることが知られており、これは通常の塩基「A」と塩基「T」の間の2本よりもつながりが強いことを意味します。

そのためZゲノムを含むDNAは、惑星初期の高熱で過酷な環境に耐えることが可能になるそう。

一方で、Zゲノムが限られた種でのみ広がっているのも、その頑強さにあるとされます。

DNAが設計図として働くためには、水素結合を解いて1本鎖の状態に変異する必要がありますが、余分な結合力は変異を困難にし、生命活動に必要な代謝速度を低下させます。

そのためDNAの頑強さは初期の地球のように高温で過酷な環境では有利であっても、現在の地球においてはハンデになりかねません。

それでも、Zゲノムの安定性は、特定の遺伝子技術にとっては理想的な候補になりえます。

今回の研究によってZゲノムを作るために必要な酵素が特定されたため、研究者たちはZゲノムを生産することが可能になりました。

研究者たちは今後、Zゲノムを人間を含む様々な生物の細胞に組み込み、何が起こるかを調べていくとのこと。

地球産かどうかも怪しいZゲノムですが、研究が進めば人の役に立つ日が来るかもしれません。

参考文献
Some viruses have a mysterious ‘Z’ genome

元論文
A third purine biosynthetic pathway encoded by aminoadenine-based viral DNA genomes
Noncanonical DNA polymerization by aminoadenine-based siphoviruses
A widespread pathway for substitution of adenine by diaminopurine in phage genomes

提供元・ナゾロジー

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