色気より食い気ということが、匂いの感じ方の研究から明らかになったようです。

私たちの空腹時と満腹時で、食べ物の匂いの感じ方が異なります。

この理由や効果の程度を調査した研究が、2021年3月3日に科学雑誌『nature』で発表されました。

この研究を報告した、ハーバード大学のチームによると、空腹時に匂いへの誘引を起こす神経細胞を特定し、このスイッチをオンにした場合、マウスは異性のフェロモンより食べ物の匂いに引き寄せられたとのこと。

恋は空腹に勝てないようです。

目次
お腹が空くと食べ物の匂いが魅力的になるのはなぜ?

お腹が空くと食べ物の匂いが魅力的になるのはなぜ?

私たちは空腹時に、食べ物の匂いに強く惹かれます。

一方、満腹のときに食べ物の匂いを嗅ぐと、「うぷ、気持ち悪い」「もういい」と感じてしまいます。

「これは、私たちの生理的欲求に応じて、匂いが異なる神経回路を活性化させていると考えられます」

今回の研究の筆頭著者である、ハーバード大学生物細胞学の研究者である堀尾奈央氏は、そのように述べ、この経路を特定するための実験を行いました。

食べ物への欲求は、脳の奥深くにあるアーモンド型の視床下部にある神経細胞が、アグーチ関連ペプチド(AGRP)と呼ばれる化学物質を放出することで引き起こされます。

これはよく知られている事実です。

研究チームは、オプトジェネティクス(光遺伝学)と呼ばれる神経細胞のスイッチを光によってオンオフできる技術を使い、この影響を調査しました。

実験では、離れた位置に2つの穴が空いた箱を用意し、片方からは食べ物の匂い、もう片方からは性フェロモンを漂わせました。

この箱に、満腹のマウスと、24時間絶食して空腹状態のマウスをそれぞれ入れたとき、どちらの匂いにどの程度引き寄せられるかが調べられました。

すると、AGRPニューロンを活性化させたマウスは、満腹の状態でも食べ物の匂いに強く惹かれることがわかったのです。

しかしAGRPの神経細胞は枝分かれして広がっているため、脳のどの部分が刺激されているのかよくわかりません。

そこで、チームは複数のAGRPニューロンの末端を活性化させて、その領域を特定しようと試みました。

結果、「視床室傍」と呼ばれる領域の末端だけが、食べ物の匂いへの嗜好性を変化させるとわかったのです。

お腹が空くと食べ物の匂いを魅力的に感じる理由が明らかに
(画像="Hypothalamus"が視床下部。室傍核はこの視床下部の内側部に位置する。 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

逆にこの領域の信号を停止させると、マウスは空腹状態でも食べ物の匂いにあまり引き寄せられなくなりました。

実際には、空腹時にはもう少し複雑なシグナルの流れが発生しますが、それが食物の香りで食欲をそそる原因となり、他の選択肢よりも食べ物を魅力的に感じさせているようです。

「脳の視床が、スイッチの役割を果たしていて、生理的な必要性に応じて、優先的に注意を払うべき感覚を決定させ、異なる神経伝達物質を流して行動の原動力を生んでいる可能性がある」

研究共著者の、ハーバード大学のステファン・リバールス博士はそのように述べています。

お腹が空いているときは、異性のフェロモンより、食べ物の匂いのほうが魅力的に感じるように、脳はつくられているようです。


参考文献

Why does food smell so good when we’re hungry?(Harvard Medical School)

元論文

Hunger enhances food-odour attraction through a neuropeptide Y spotlight


提供元・ナゾロジー

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