なんともフランスらしい研究が、国際宇宙ステーションを利用して実施されました。
それは、宇宙でワインを熟成させるとどうなるだろう? というものです。
フランス企業Space Cargo Unlimited社は、「Mission WISE」という研究プロジェクトの第一弾として、赤ワインを宇宙へ輸送し、1年以上熟成させた後、同じ期間地上で熟成させたワインと飲み比べるという実験を行いました。
その結果、宇宙で1年熟成させた赤ワインは、地上で3年熟成させた場合に近い味わいになったとのこと。
宇宙のワインは早熟であることが明らかとなったのです。
早熟な宇宙ワイン
2019年11月、シグナス補給線が宇宙ステーション(ISS)に12本のボルドーワイン「Pétrus2000(ペトリュス 2000)」を輸送しました。
これは、宇宙飛行士にとっては残念なことに、食事の楽しみとして送られたわけではありません。
無重力がワイン熟成にどのような影響を与えるかという、科学研究のために送られたものでした。
12本のワインは、軌道上のワインセラーに438日と19時間(14カ月)保管された後、再び地上へ戻されました。
そして、分析の初期段階として、地上で同じ期間熟成された同じ種類のボトルとの試飲会が開催されました。
この試飲会に参加したのは、プロのワインテイスター5人を含む、12人のパネリストたちです。
このテストでは、パネリストにどれが何のワインかわからない形で、3杯のワインが用意されました
彼らはそれを、視覚、味覚、嗅覚の基準に従って、テイスティングしていきます。
結果は、満場一致で2つのワインが素晴らしいと評価されました。
そして、その2つのワインとはどちらも国際宇宙ステーションで14カ月間保管された宇宙ワインだったのです。
パネリストたちはまず色合いが他と違うことを確認し、1人は「レンガのような反射を伴うルビーの色合いだ」とコメントしました。
香りや味わいの違いについても、その複雑さは際立っていたと評価され、2つのワインはそれを証明するように豊富な語彙で説明されたとのこと。
甘さ、調和、持続性の感覚的側面が特に注目されたようです。
素人には、こうしたワインを見分ける感覚の違いは容易に理解できませんが、パネリストたちは自分たちの味わっているものが、地上熟成か、宇宙熟成か事前に知らないまま、明確な違いを表現しました。
テイスティングに参加したパネリストの1人、ワイン作家のジェーン・アンソン氏は記者会見の場で「宇宙で熟成されたワインは、実際の保管期間から予想されるよりも、おそらく2年から3年熟成が進んでいた」と語っています。
宇宙が与えるワインへの影響
今回の研究は、フランス企業Space Cargo Unlimited社が「Mission WISE」と呼ばれる研究プロジェクト6つの実験の第一弾として実施したものです。
宇宙ミッションでWISEといわれると、NASAの人工衛星「広域赤外線探査衛星(WISE)」を連想する人もいるかもしれませんが、本ミッションはそれとは関係ありません。
この「Mission WISE」は「VitisVinumin SpatiumExperimentia」の略で、その意味はラテン語で「遠く離れた場所でのブドウワインの実験」です。
次の実験では、ブドウの新芽に対して微小重力がどのような影響を与えるか研究されるそうです。
また、2022年末に予定される3つ目の実験では、バクテリア、酵母、発酵プロセスに焦点を当てた研究が行われます。
もちろんこの研究は単なる酔狂ではなく、ストレスにさらされた植物の影響や変化を調査し、気候変動などに備えた農業研究です。
ブドウ栽培の未来のために宇宙環境を活用した実験を民間主導で行うというのは、まさにフランスらしい研究といえるでしょう。
今回の宇宙ワインは、まだパネリストによる評価を行っただけで、生化学的な組成の分析はこれからとなります。
なお、この宇宙ワインは、いずれ一般向けにも販売する予定だといいます。
オークションハウス「Christie’s」は、その販売価格を約83万ユーロ(約1億900万円)と見積もっています。
「幸運なバイヤーは、2つのワインを比較できるでしょう」とChristie’sのマスター・オブ・ワイン、ティム・ティプトリー氏は述べています。
なお、今回実験に使用されたシャトー・ペトリュスは、年間約3万本しか生産されない世界でもっとも高価なワインの1つです。
地上熟成されたペトリュス2000のヴィンテージボトルも、通常価格は1本約70万円以上します。
参考文献
Red wine in space may age faster than on Earth, study finds(space.com)
提供元・ナゾロジー
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