フィクション作品では、人類のほとんどが死滅した「終末世界」が1つの人気ジャンルを形成しています。

そこでは、わずかに生き残った人類が小さなコロニーを築いて暮らしていたりしますが、そんなときある疑問が浮かんできます。

人類とは最低何人残っていれば、繁殖を続けることができるのでしょう?

そこで今回は、多世代の星間移民を実現できる最小乗組員数という研究をもとに、終末世界を生き延びるために必要な人類の数を考えていきます。

目次
もっともネックになるのは近親交配
惑星プロキシマbへの移民船には何人必要か?

もっともネックになるのは近親交配

終末世界で人類は最低何人が生き残れば存続できるのか?
(画像=フィクションでは人気の終末世界 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

全面的な核戦争や、巨大小惑星の衝突など、地球上の人類の多くが死滅した世界を想像するのは、さほど難しいことではありません。

しかし、仮にそんな世界に生存者がいたとして、人類という種を存続させるためには何人の人間が必要なのでしょう?

いくつかの研究が、こうした問題に取り組んでいます。

「人口が数百人程度あれば、何世紀にもわたって人類は生き延びることが可能でしょう」

米国ポートランド州立大学で初期の人類文明や宇宙移民に関する研究を行うキャメロン・スミス氏は、そのように述べています。

スミス氏によると、人類が農耕をはじめた新石器時代初期(最終氷期の終わった約1万2千年前)、人類は数百から千人程度の小さな集落を作って世界中に散らばっていました。

この集落は基本的には独立した集団でした。

終末世界で人類は最低何人が生き残れば存続できるのか?
(画像=新石器時代のイメージイラスト / Credit:libcom、『ナゾロジー』より引用)

文明が崩壊した世界では、食料のほとんどを輸入に頼り、電気に大きく依存している大都市はもっとも脆弱な地域になると考えられます。

そのため、生き残った人々は都市を離れ、資源を求めて散らばっていくことになるでしょう。

その結果、数百人規模の集落が各地に生まれ、初期人類と同様の状況になると考えられます。

初期の人類でも、集落間でわずかに人の移動があり、他集落との交配や婚姻がありました。終末世界でも同様のことは起きるでしょう。

ただ、少ない人数で繁殖を維持しようとした場合、その集団は大きな問題に直面します。

それは近親交配です。

近親交配がもたらす影響は、16世紀から17世紀にかけてスペインを支配したハプスブルク王朝の没落から見ることができます。

ハプスブルク家は高貴な血統を保つために、近親婚を繰り返していました。

その結果、ハプスブルク王朝は1700年に亡くなったカルロス2世を最後として滅亡します。

このカルロス2世は不妊症で、数々の先天性疾患を患っていました。

彼は顔が変形し咀嚼に難があって、常によだれを垂れ流していたといわれています。また、知的障害も併発していたようです。

終末世界で人類は最低何人が生き残れば存続できるのか?
(画像=ハプルブルク王朝最後のスペイン王カルロス2世 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

現代の研究は、これらの原因が何世代にもわたり繰り返された近親交配の影響だったと考えているそうです。

これは人数が減少し、繁殖の選択肢が限られた人類にも起こりうる可能性があります。

これを避けるためには、十分な遺伝的多様性を保つ必要があり、十分な数の繁殖年齢に達した異性の個体(有効個体数)が必要となります。

惑星プロキシマbへの移民船には何人必要か?

厳密に終末世界の生き残りを考えると、どのような惨事で人が減ったのか? 利用可能な土地はどの程度あるのか? など複雑な要因が絡んできます。

そこで人口規模のみに絞ってシンプルに問題を考えるために、人類は宇宙へ逃れたと仮定してみることにしましょう。

このとき、世代を超えて宇宙を旅する移民船には、最低何人の乗組員が必要になるでしょうか?

フランス・ストラスブール大学の宇宙物理学者のフレデリック・マリン氏は、2018年に科学雑誌『Journal of the British Interplanetary Society』でそんな研究を発表しています。

マリン氏が研究したのは、太陽系にもっとも近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリを周回する居住可能惑星プロキシマ・ケンタウリbへ移住する場合の、必要最低人数です。

終末世界で人類は最低何人が生き残れば存続できるのか?
(画像=地球からもっともt近い居住可能惑星プロキシマ・ケンタウリb。ただし居住可能というのは人類が住める星という意味ではない。 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

プロキシマbが本当に人類の住める惑星なのかはわかりませんが、現代の技術でこの惑星へ移動した場合、かかる期間は6300年です。

マリン氏は、少ない人数で人類が繁殖した場合の不妊症、近親交配、病気や事故による突然死などさまざまな要因を考慮し、モンテカルロシミュレーションを用いて、この長い旅を達成できる最少人数を計算しました。

結果、その人数は98人でした。

この研究で考えられている乗組員は、49組の血縁関係のない繁殖可能なペアです。

また、集団の遺伝的多様性を健全に維持するためには、乗組員の繁殖を監視・制限する必要があるとしています。

これは厳密に管理できる場合の最少人数であり、2021年2月に発表された同研究チームの後続研究では、遺伝的多様性を無理なく安全に維持できる可能性が高いのは500人だと報告されています。

終末世界で人類は最低何人が生き残れば存続できるのか?
(画像=星間移民船では500人のクルーがいれば安全に遺伝的多様性が維持できる / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

これは、たとえていうならば、旅客機がニューヨークへ向かう際、滑走路に到着できるギリギリの燃料で飛ぶのか? という問題に似ています。

計算上の必要最低人数は、理論的なギリギリの人数です。普通、飛行機は余裕を持って燃料を積み込みます。

当然終末世界を生き抜く場合にも、ギリギリの人数では生存できる可能性がかなり制限されるでしょう。

そう考えると、最新の研究で報告された500人というのが、人類の遺伝的多様性を維持する最低人数だと考えるべきかもしれません。

もちろん、繁殖可能な年齢で男女比率は均等である必要があります。

ただ、宇宙船のシミュレーションは、最初のスミス氏の例のような他集落間での人の移動は一切ないため、条件が厳しくなっています。

地上に複数の集落があり、多少は人の入れ替わりがある場合は、これより少ない人数も可能かもしれません。

何にせよ、終末世界を生き抜く人類の一員にはあまりなりたくありませんね。


参考文献

What’s the minimum number of people needed to survive an apocalypse?(livescience)

元論文

Genetic evolution of a multi-generational population in the context of interstellar space travels — Part I: Genetic evolution under the neutral selection hypothesis

Computing the Minimal Crew for a multi-generational space journey towards Proxima b


提供元・ナゾロジー

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