将来の年金への不安から老後資金への関心が高まっているが、実際にはいくら蓄えておけば安心なのだろうか。老後の生活は主に年金と退職金、そして現役時代の貯金で賄うことになるだろう。今回は平均的な会社員が必要になる老後の資金額とそれを準備する方法、また退職金の額の予想も紹介する。
老後資金は実際にいくら必要?モデルケースでシミュレーション
項目 | 金額 |
---|---|
老後の生活費(60~87歳) | 8,612万1,624円 |
老後の年金支給額(65~87歳) | 6,113万5,104円 |
老後の不足資金額 | 2,498万6,520円 |
※下記シミュレーションを元に筆者作成
では老後資金はいくら必要なのか、具体的に見ていこう。2人世帯の老後の毎月の生活費は以下のようになっている。(※総務省2018年「家計調査年報」より)
- 60歳から69歳まで……29万1,019円(年間約350万円)
70歳以上……23万7,034円(年間約284万円)
この世帯の2人がどちらも女性の平均寿命である87歳まで生きるとすると、生活費の計算式は以下のようになる。
(29万1,019円×12ヵ月)×10年+(23万7,034円×12ヵ月)×18年=8,612万1,624円
60歳からの生活費は合計で約8,600万円必要だ。
一方、厚生労働省が2019年に発表した夫婦2人の年金額の平均は月22万1,504円である。この額を65歳から87歳まで23年間受け取るとすると計算式は以下のようになる。
22万1,504円×12ヵ月×23年=6,113万5,104円
この場合、受け取れる総額は約6,110万円だ。不足する生活費の合計は以下の計算で求められる。
8,612万1,624円―6,113万5,104円=2,498万6,520円
生活費だけで約2,490万円不足する計算だ。これに医療費や住宅のリフォーム、予備資金などを合わせると、老後資金は3,000万円ほど必要になるだろう。
退職金は老後資金にするべき?退職金の額は年々減り続けている
では退職する際に支払われる退職金はいくらなのだろうか。
2018年の厚生労働省の調査によると、2017年の大卒の退職金平均額は1,983万円だった。(厚生労働省の2018年「就労条件総合調査」より)続けて同調査の推移を見ると、大卒の退職金は2002年には2,499万円、2007年では2,280万円と、その水準は下がってきている。
この先数年で退職するのであれば、それほど大きく金額が変わることはないだろうが、現在40代ならば定年まで20年近くある。20年後の退職金がどの程度になるか、また本当に退職金がもらえるのかは不透明だ。
ただ年金の不足額から考えると、退職金はなるべく老後資金に回せるように計画をしておいたほうがよいだろう。仮に退職金の平均額である1,983万円を60歳で受け取るとすると、老後に不足する金額は約500万円まで下がる計算だ。
2,498万6,520円-1,983万円=515万6,520円
退職金を老後資金に回すためには、住宅ローンは現役のときになるべく完済できるようにするなど準備を進めておきたい。
老後資金を作る3つの方法 iDeCo、個人年金保険、不動産投資
老後に必要な金額がわかったところで、それはどのように準備すればよいのか。さまざまな方法が考えられるが、ここでは異なる分野から3つ紹介しよう。
方法1.税制が優遇された注目の投資法「iDeCo(イデコ)」
まずは老後資金形成の方法として注目を集めているiDeCoである。iDeCoの特徴は、掛金が全額所得控除になるため手取りが増えることや、利息・運用益が非課税になるなど、税制面の優遇が手厚いことだ。
1ヵ月に拠出できる掛金は国民年金の区分ごとに異なり、企業年金制度のない会社員の場合、拠出限度額は月額2万3,000円(年額27万6,000円)となっている。仮に毎月2万3,000円を投資信託で運用し年率3%で20年間運用すれば、約755万円を老後資金にできる。
もちろん投資なので損をするリスクはあるが、総合的に見て老後資金を作る方法として真っ先に考えたい制度だ。ただし原則として60歳まで引き出せないので、老後資金という目的以外には使いにくいことを覚えておこう。
方法2.支給額を見積もりやすい「個人年金保険」
個人年金保険の多くは60歳あるいは65歳まで保険料を払い、その年金原資を5年や10年という決まった期間に定額で受け取る。積み立てた資金を大きく増やす類いの商品ではないが、受け取る金額を自分で選べるため老後の計画が立てやすいのが特徴だ。
ただし金額が決まっている分、将来インフレになったときに物価の上昇に対応できないというリスクもある。
方法3.継続的な収入が期待できる「不動産投資」
不動産投資とは、購入したアパートやマンションを他者に貸すことで家賃収入を得る投資方法。空室率を低く抑えて運営できれば安定した収入が期待できる。
前述したiDeCoと個人年金保険はあくまで資金を貯める手段で、老後はそれを取り崩していくが、不動産投資は物件を所有し入居者がいる限り、収入を生み出し続ける点が異なる。
しかしながら不動産を管理するには当然知識が必要である。何も知らずに不動産を購入し、ほったらかしで利益が出るほど甘いものでもない。不動産投資を考えるのであれば、本やセミナーなどで十分に知識を深めた上で実践したい。
年金や退職金をあてにせず、積極的な資金確保の検討を
老後に必要になる金額と確保する方法、そして退職金の目安について紹介した。もちろん金額は一例であり、働き方や生活水準によって年金額や退職金、生活費などは大きく変わるが、ほとんどの場合で老後に対する準備が必要だろう。今回の例を参考に自分に合った方法で今から始めていきたいものだ。
文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所)
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