どうしてみんな八ヶ岳が好きなのだろうか? 答えは、十人十色の遊び方があるから。夏山に限らず冬山もそう。位置関係と冬の楽しみを把握すれば、イメージがグッとたしかになるに違いない。

1 坪庭周辺の霧氷をスノーシューで眺め歩く。

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(画像=FUNQ/PEAKS)

樹氷とは、氷点下になった水蒸気や霧が、樹の枝などについて凍り、樹々に氷の花が咲いたように見える現象。とくに坪庭周辺はロープウェイで標高2,230mまでアプローチできるため、雪山初心者でも霧氷の美しさに出会える確率が高く、その経験は見る者を雪山の虜にすることだろう。

北八ヶ岳ロープウェイ山頂駅からスノーシューを履いて、白く輝くサンゴの海を漂うような気持ちで歩けば、そこはもう異世界空間。

坪庭からは中央アルプス、南アルプスなどの遠望も楽しめるが、さらに眺めの良い北横岳、縞枯山展望台、また原生林に囲まれた大雪原・雨池などにまで足を延ばせば、充実した1日になること間違いなし。おすすめの雪山入門エリアだ。

木風舎 橋谷 晃

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2 麦草ヒュッテからBCクロカンで滑る。

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Photo by Dai Iizaka(画像=FUNQ/PEAKS)

にわかには信じがたいことだが、15~20年前の北八ヶ岳はスキーヤーで賑わっていた。いまでもそのブームの名残はあって、麦草ヒュッテや縞枯山荘、青苔荘、高見石小屋にはレンタルスキーが用意されている。冬の北ヤツはスキーの聖地なのだった。

小屋でレンタルできるのは“滑り”より“歩き”を重視したBCクロカン、あるいはXCスキーと呼ばれる滑走道具。滑走面に後方への滑り止めステップ加工を施して、前には進むが後ろには滑らない。つまり歩いて、登って、滑れるスキー。

ビギナーには、麦草ヒュッテでスキー一式をレンタルし、国道299号を白駒池へ下るコースがおすすめだ。斜度がなだらかでいい練習になる。帰路は駐車場があるメルヘン広場までスキーで下ってゴール。なんと乗り捨てができるのだ~!

ライター 森山伸也

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3 高見石小屋で星空を見上げる。

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Photo by Susumu Matsui(画像=FUNQ/PEAKS)

キンと冷えた冬の空気は、星空をよりいっそうくっきりと鮮明にする。街でさえそう感じるのだから、山に行けばなおさらだ。

針葉樹の森が広がる北八ヶ岳は、雪をかぶると天然のクリスマスツリーだらけ。その森を体が温まるくらいのペースで登っていくと、まるであつらえたかのような大岩の展望台、高見石へと到着する。

その脇でひっそり静かに佇む高見石小屋は、1階は薪ストーブ、2階はコタツと、じんわりとした暖かさで出迎えてくれる。屋根は天窓になっていて、昼間は明かり取りに、夜はそこから星空観察ができるというぜいたくな仕様。

コタツで寝転がりながら楽しむもよし、長靴を借りて、モコモコに着込んで小屋のテラスで眺めるもよし。しらびその梢の遥か上空で瞬く星々。八ヶ岳本来の静けさを取り戻す冬がいい。

登山ガイド 菅野由起子

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4 しらびそ小屋でゆったり小屋泊。

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本誌の連載の取材で年の瀬にしらびそ小屋を訪ねたことがある。その日は、ご主人の今井孝明さんが不在で、先代ご夫婦が温かく迎え入れてくれた。ちょうどお客さんの少ない日で、私たちのほかには連泊のおじさんしかいなかった。

薪ストーブが焚かれた室内に入ると、寒さで硬ばった体が緩んでいく。エサを探しにきたニホンリスを窓から眺めながら、薪ストーブで焼いた厚切りトーストをいただくと、おいしくて今度は頬が緩んだ。冬の山小屋は、隔絶されたかのような白い静かな世界のなかで、そこだけぽっかりと暖かい。

次の日の朝、小屋のお母さんといっしょにお散歩に出かけた。みどり池の向こうにそびえる真っ白な東天狗岳が、青空の下で輝いて見えたのを覚えている。

イラストレーター 神田めぐみ

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5 黒百合ヒュッテでテント泊をする。

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天頼できるスタッフたちがいる黒百合ヒュッテ。水場、トイレ、おいしい食事まで得られる。たとえ重量が増えてでもダウンなどの十分な防寒着が必須だ。そこは厳冬期なら−20℃にもなる世界。でも、小屋の明かりがあることで不安は解消される。

稜線が延びる中山峠までは目と鼻の距離だが、たとえ風が強く荒れていて頂上が目指せなくてもよい。寒いなかで淹れるコーヒーや、凍えながら作る山メシの温かさを知ることができる。

初めてひとりで訪れて緊張したあの日から何度通っただろう。明るい夜と眩しい朝。動物の足跡。雪の静けさ、無音という音を知る。一度吹雪くと歩いてきた道すらもわからなくなる。冬のテント泊という日常では得られない緊張感のある時間。それは、ありのままの自然の姿を教えてくれる気がする。

写真家 飯坂 大

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6 天狗岳周辺をひたすら撮影する。

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(画像=FUNQ/PEAKS)

厳冬期の山に広がる真っ白なキャンバスをのんびりと、カメラ片手に歩きたい。青白く凍りつくなかを、風紋が広がってグラデーションしながら燃え上がっていくなかを、真っ青な空に舞い上がる煌めきのなかを……。いつものようにのんびりと満喫できたら良いのに。

厳冬期の山で写真を撮るのは、夏のそれとは何倍もプロセスが変わりハードルも高くなってしまう。荷物のパッキング中にも「あれ?もうパンパンじゃん」なんてことばかり。カメラの居場所は皆無。それでも雪山をのんびり歩いて出合える瞬間は、なににも代え難いものがある。

北八ヶ岳なら森や池の広がる変化に富んだ雪山を満喫したい。早めにテントを設営して、近くの森の光をただ眺める。それだけでもいいな。

フォトグラファー 宇佐美博之

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7 赤岳鉱泉のアイスキャンディを登る。

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Photo by Wataru Sugimura(画像=FUNQ/PEAKS)

現代のアイスクライミングは赤岳鉱泉のアイスキャンディからはじまるといっても過言ではない。街のボルダリングジムでクライミングをはじめた若者が、やがてクラッシュパッドやロープを背負って外岩に向かう。同様に、ここではじめてアックスを握り、横岳の西壁を登り、各地の氷瀑や世界の壁を目指すようになっていくのだ。

赤岳鉱泉では、アイスアックスクランポンの貸し出しがある。それらを使いながら試し、安全な環境のなかで自分の技術の限界を知り、練習により高めていく。普通の氷だけでなく、ミックスクライミングやオーバーハングした氷にトライできるのも特徴だ。

実際のところアイスキャンディの氷を自由自在に登れないようでは自然の氷壁では通用しない。まさに現代のアイスクライミングのスタート地点といえるだろう。

山岳ガイド 三笘 育

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8 阿弥陀岳北稜のバリエーションルートにチャレンジ。

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初めてのバリエーションルートとしておすすめなのが阿弥陀岳北稜。一般ルートより険しくロープの確保が必要なバリエーションルートだ。より冒険的で核心を越えて頂上に立ったときの喜びはひとしお。一般ルートからでは見られない景色を楽しめるのも魅力的である。

雪山技術、マルチピッチクライミングのスキルが必要だが、経験のあるリーダーがいれば赤岳~硫黄岳縦走の次のステップに登ってみたい。

行者小屋から文三郎尾根を進み、途中で右へ。しばらく樹林帯を登ると急な雪面に出る。雪面を登りきると第一岩峰の基部。快適なミックスクライミングで3ピッチ登り、ナイフリッジを渡れば阿弥陀岳の頂上はすぐ。阿弥陀岳からの下降が急なので注意を心がけたい。

イラストレーター/ライター 成瀬洋平

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出典
PEAKS 2017年12月号 No.97

PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

提供元・FUNQ/PEAKS

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