白黒写真に写っている過去の偉人たちは、誰もが威厳があって苦労したように見えます。
しかしそれは本当の姿ではありません。当時の写真技術には限界があり、シワなどが強調されていたのです。
アメリカ・ワシントン大学に所属する計算機科学者スワン・ルオ(Xuan Luo)氏ら研究チームは、AI技術を用いた「タイムトラベル再写真撮影(英訳:Time-Travel Rephotography)」を開発。
これにより、昔の白黒写真を現代のカメラで撮影したような画像に復元できるようになりました。
研究の詳細は、2020年12月22日にプレプリントサーバー『arXiv』上で公開されています。
目次
白黒写真の欠点とカラー復元の課題
AIによるタイムトラベル再写真撮影
白黒写真の欠点とカラー復元の課題
ほとんどの人が、1863年に撮影されたエイブラハム・リンカーン大統領の白黒写真を見たことがあるでしょう。
当時リンカーン大統領が50代だったことを考えると、かなり老けて見えるのではないでしょうか?
しかしそれはしょうがないことです。
なぜなら、1907年以前の写真技術には限界がありました。カラースペクトルの青い部分に敏感であり、赤い部分には鈍感だったのです。
通常、光は人間の皮膚に当たると跳ね返りますが、赤スペクトルは表面を通過。これには内部から皮膚を照らし、シワなどを目立たなくする効果があります。
つまり当時の白黒写真では赤スペクトルがカットされてしまうため、人間が直接見るよりもシワが強調されてしまうのです。
もちろん、現在の技術であれば白黒写真をカラーにすることも可能です。
しかし既に強調されたシワはそのままであり、本当の姿とはかけ離れています。
最近、研究チームはAIを用いて、カラースペクトルの差を埋めることに成功。
私たちが過去にタイムトラベルし、偉人たちを現代のカメラで撮影したような写真を入手できるようになったのです。
比較画像で確認できるように、従来のカラー再現よりもかなり若々しく温かみのある存在になりました。
AIによるタイムトラベル再写真撮影
タイムトラベル再写真撮影のプロセスは以下のようになっています。
最初に、トレーニングされたAIによって白黒写真の人物と同じ特徴をもつカラー写真を探します。
その写真は被写体と別人ですが、特徴が似ているため「兄弟写真」と呼ばれます。
次に、高画質な兄弟写真をモノクロ化すると、どんな色や特徴が失われるか分析。
元の被写体と兄弟写真は似ているため、「モノクロ化で失われる成分」も大部分が一致すると考えられます。
つまりこのプロセスで、元の被写体から劣化した要素が特定できるのです。
最後に、劣化要素に基づいて被写体を復元。現代のカメラで撮ったような写真画像が作られます。
ただし研究チームは、これが完全な復元ではない可能性を指摘しており、元の白黒写真とは「大きく異なって見えるかもしれない」と付け加えています。
とはいえ、この新技術は歴史上の人物をより現実的な存在として写しだしてくれます。
歴史を深く学び、思いをはせるのにたいへん役立つでしょう。
文・ライター:大倉康弘 編集者:KAIN/提供元・ナゾロジー
参考文献
New photo colorizing technique uses skin reaction to light for life-like results
元論文
Time-Travel Rephotography
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