こんにちは、デザイナーのこげちゃ丸です。

みなさん、映画を選ぶときに何を参考にしてますか? 色々ありますが、興行収入ランキングもそのひとつだと思います。ただ、それだけでは決め手に欠けますよね。

でも、「興収ランキング1位の作品を見たけど、やっぱり面白かったよ!」 と友達が教えてくれたらどうでしょう。見てみたくなりませんか? 友達の感想は主観、ランキングは客観データです。主観と客観がうまく合わさると、人を動かす力になるんです。

今回は、デザインのプレゼンで重要な主観と客観のバランスについてお話します。

目次

  1. 主観に偏った言葉は共感を生みづらい
  2. 客観的すぎる言葉は冷たく聞こえます
  3. 根拠ある主観で相手の心を動かそう
  4. プレゼンは信頼関係構築の場

主観に偏った言葉は共感を生みづらい

いきなりですが、「エモい」を言語化できますか? 言葉にできないからエモいって使うんでしょ?と言われそうですね。

でも、クライアントから「エモい感じのグラフィックでお願いします」と依頼されることもあるんです。では、「なんとも言い表せない感覚」を説明しなくてはいけないときはどうすればいいのでしょうか?

クライアントに「エモいデザインにしてきました~」とは言いづらいですよね。なぜなら、「エモい」という感情は主観的なものだからです。もっと具体的に説明してください、と言われたら困ってしまうでしょう。

たとえば、『90’sベスト100』という音源の告知ビジュアルのデザインをプレゼンしている場面を想像してみてください。

「お互い目を逸らしながら照れ合って、片耳ずつイヤホンで曲を聴いてるのって…… エモくないですか?」うーん、自分の嗜好を告白してるみたいで赤面しちゃいますね。でも、説明の仕方を変えれば印象はガラッと変わります。

「いまはワイヤレスが主流なので、有線のイヤホンを二人で分け合うシーンは少ないでしょう。でも、『90’sベスト100』のターゲットとしている30代、40代にとってノスタルジーと共感を生むビジュアルになると思います」

どうでしょう。同じビジュアルの説明でも感じ方が全く違いませんか?

前者は、デザイナーの主観だけで語っていて共感を生みづらい説明です。後者は時代の流れを客観的に捉え、主観を交えて語っているので説得力があるんです。

客観的すぎる言葉は冷たく聞こえます

第一回の記事で、「プレゼンは相手(クライアント)が知りたいことから伝えるべき」と書きました。これは本当に大切なことですが、加えてぼくが気を付けていることがあります。それは、デザインの説明を客観的にしすぎないということです。

たとえば、Webサイトのリニューアルデザインでは、現行サイトの「PV(閲覧数)」や「クリック数」というデータをもとに、ボタンの変更やナビゲーションの構成を考え、デザインを再構築していきますよね。デザインの説明も数字を伴う客観的なものになります。そしてそれは、クライアントが聞きたいことと直結しています。

しかし、新規事業立ち上げのWebサイトで同様の説明をしたらどうでしょう。色、配置、導線に至るまで、そのデザイナーの経験から導き出された数値をもとにロジカルにデザインが語られる。でも、新しいビジネスを始めようと情熱を燃やしているクライアントに、その説明は響くのでしょうか? 客観的すぎる説明は、評論家のような冷たい印象を与え、プレゼンでマイナスになることがあるんです。

データに基づく説明は、説得力がありますが、それだけではデザインのプレゼンは上手くいきません。客観と主観をうまく混ぜ合わせるのがポイントです。

仮想のEC店舗を例にして考えてみましょう。

数種類の小麦粉にバター、トッピングや焼き加減までネットで簡単、自由に選べる。前日12時までに注文すれば翌朝焼き立ての商品が自宅に届く、まったく新しいオーダーメイドクロワッサン専門店

このお店のWebデザインを経営者から依頼されたとします。メインビジュアルを説明するとしたら、どちらが良いと感じますか?

「エモい」を言語化できますか? 主観的意見に説得力をもたせる方法
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)
  • ① Webアンケートの結果、「Aの方が美味しそう」と回答した人は100人中90人でした。自信をもってA案をオススメします。
  • ② 社内のデザイナー全員が「Bの方がお店の特徴が伝わる」と同じ意見になりました。自信をもってB案をオススメします。

多分、どちらもクライアントの反応は良くないと思います。その理由を説明しますね。

①は客観的視点が100%で、デザイナーの意見がありません。9割の高評価を得たビジュアルは、たしかに素晴らしい。でも、アンケートで答えたとおりにお客様が動いてくれるとは限らないのです。アンケートに関する教訓めいたこんな小噺があります。

ある食器メーカーが定番商品の新色に関するアンケートを行った。ターゲットである主婦層を集め「オーソドックスな白いお皿とモダンな黒いお皿、あなたならどちらを買いますか?」と聞いた。すると、参加者全員が「斬新な黒を買います」と答えた。アンケート後、謝礼としてお好きな色のお皿を一枚持って帰っていいですよ、と伝えると全員が白いお皿を持って帰った。

アンケートはあくまで参考データです。そこから何を読み取りどう戦略を立てたのか、クライアントは依頼したデザイナーの意見を聞きたいんです。特に新規事業や新しい店舗を始めようとしている経営者は、不安がいっぱいです。デザインに関することは、デザイナーに背中を押して欲しいもの。それなのに、数値だけでデザインを語られては、心に響かないのも当然ですよね。

②が良くない理由は、主観に偏っているからです。デザインを決めるうえで、絶対にしてはいけないことが多数決だとぼくは思っています。この説明では、クライアントも反論しづらいし、相手にゴリ押し感を与えてしまいます。もし、クライアントがOKを出しても腹落ちしていないでしょう。

プレゼンで大事なのは説得力、そして納得感です。この人に頼んで良かったと、思ってもらわなければ次の仕事はもらえませんよね。

根拠ある主観で相手の心を動かそう

さきほどのメインビジュアルは、どの様に説明すると良いのでしょう? もちろん正解はないですが、主観と客観を混ぜた一つの例がこの説明です。

「B案を推します。お店のコンセプトがより伝わるのはB案だと、デザイナー全員の意見が一致しました。とても珍しいことなので、ぼくも驚きました。でもそれは、お店のコンセプトが多くの人の共感を生む、魅力あるコンセプトだからだと思います。敢えてシズル感(美味しそうな感じ)のある写真を使わずに、素材をアピールする。新しいクロワッサンの価値を届けたいという、お店のメッセージが伝わるのはB案だと思います」

最初に結論を言い、次に事実を述べその理由を説明し、最後にB案を推す理由を伝える。プレゼンは、客観だけでも、主観に偏ってもいけません。気持ちがこもっていない客観も、根拠のない主観も共感されません。客観的根拠と共に語られる、デザイナー自身の言葉だけが相手の心を動かせるのです。

プレゼンは信頼関係構築の場

ぼくは最終案を複数提案するときは、捨て案を出さないようにしています。どのアイデアが選ばれてもいい、最高の選択肢を提案するのがデザイナーの役目。最後の選択をするのはクライアントの役目だと思っているからです。

ただ、初めて仕事をするクライアントには、自分のオススメを必ず伝えています。判断を相手に委ねるのは信頼関係が出来てからです。このデザイナーは、自分が良いと信じているデザインしか提案しないんだな、と思ってもらえてからがスタートです。

初めて仕事をくれたクライアントは、期待と不安が入り混じった気持ちでデザイナーの提案を待っています。その期待を、数字で固めたロジカルな言葉でねじ伏せるのはイヤなんです。説得力ある言葉で相手に納得してもらいたい。いつも、そう思いながらデザインを提案しているし、どんな仕事にも共通することではないかなぁ、と感じています。

(執筆&イラスト:こげちゃ丸 編集:少年B)

提供元・Workship MAGAZINE

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