新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、暖かい気温と熱帯気候に弱いことが新たに示されました。

4月27日に科学雑誌『ScientificReports』で発表された研究では、調査の結果、赤道に近い国や夏の期間など、気温が高く日光が長時間あたる場所では、それ以外の国に比べてCOVID-19の発生率が低いことがわかったと報告されています。

これは国ごとの都市化レベル、検査数など、報告される症例数に影響をあたる要因を考慮した後でも、結果が保持されたといいます。

この報告は、蔓延し続けるCOVID-19問題に対して、希望の光となるのでしょうか?

目次
新型コロナウイルスは夏に弱いのか?
赤道に近いほど感染者が減る新型コロナウイルス

新型コロナウイルスは夏に弱いのか?

赤道に近づくほど新型コロナは減少しているという研究
(画像=日本国内のCOVID-19陽性者数(2020年1月~2021年4月) / Credit:厚生労働省、『ナゾロジー』より引用)

去年1年の新型コロナウイルスの感染状況を思い返すと、夏はいったん収まっていたという印象を持つ人は多いでしょう。

実際、インフルエンザウイルスを含む多くの呼吸器ウイルスは、季節的なパターンに従うことがわかっていて、冬にピークを迎え、夏になると低下します。

ただ、なぜウイルスがこのような季節的パターンに従うのかは、はっきりとわかっていません。

研究によると呼吸器ウイルスは、低温・低湿の環境でより安定して空気中に長くとどまることが示唆されています。

また冬は、多くの人が屋内に集まることも、感染を促進させる要因の可能性が指摘されています。

日本のコロナウイルス感染者数の推移を見ると8月に増えているようにも見えますが、これはPCR検査実施数と連動しているようにも見えるでしょう。

赤道に近づくほど新型コロナは減少しているという研究
(画像=日本のPCR検査実施人数(2020年2月~2021年4月) / Credit:厚生労働省、『ナゾロジー』より引用)

実験室では、培養したSARS-CoV-2の生存率を、高温多湿の環境が低下させるとわかっています。

ただ、こうした要因が実際の感染数の変化にどうつながるかは不明です。

では実際のところ、新型コロナウイルスは夏に弱いのでしょうか?

赤道に近いほど感染者が減る新型コロナウイルス

ドイツ・ハイデルベルク大学をはじめとした研究グループは、パンデミックの始まりから2021年1月9日までの、COVID-19蔓延に関する117カ国のデータを分析しました。

今回研究グループが着目したのは、COVID-19の広がりと国の緯度との関係です。

この分析では、世界保健機関のデータを使用して、飛行機での旅行者数、医療費、高齢者と若者の比率、経済発展状況など、発症数に影響を与える要因は取り除くように管理されています。

これにより分析では、緯度による国ごとの日光の量や温度・湿度と、感染拡大レベルの関連性が比較できたのです。

結果、赤道から国の緯度が1度増加するごとに、100万人あたりのCOVID-19症例数が4.3%増加することが明らかとなりました。

赤道に近づくほど新型コロナは減少しているという研究
(画像=国のの絶対緯度に対する住民100万人あたりのCOVID-19発症件数 / Credit:Simiao Chen et al.,ScientificReports(2021)、『ナゾロジー』より引用)

これはつまりある国が別の国と比較して、赤道に約1000km近い場合、その国は100万人あたりのCOVID-19感染者数が33%少なくなる予想です。

「今回の結果は、気温と日光がSARS-CoV-2の拡散とCOVID-19の流行を抑制するという仮説と一致します」研究グループはそのように述べています。

この理由について、研究者は「夏の高温と、強い紫外線がSARS-CoV-2を含むウイルスへの公衆衛生をサポートしている可能性が高い」と述べています。

実際、北半球で日の光が弱まる冬季に新型コロナウイルスの発症数が増加していた事実とも、研究結果は一致しています。

しかし、温暖な気候の地域でCOVID-19がなぜ減るのかの明確なメカニズムは不明のままです。

研究者は、これが従来の推測と同様に、温暖な地域では人が屋内に密集することが少ないためである可能性も否定できないと論文に記しています。

そのため、より条件を細分化した研究が、今後は必要となってくるでしょう。

なんにせよ、夏になれば現在の混乱はいったん収まるのでしょうか?

研究者は「今回の研究が、夏になればこの病気が消えるとか、赤道に近い国は影響を受けないことを意味するわけではない」、と警告しています。

特に今回の研究データには、南アフリカと英国で出現した変異型が流行する前の2021年1月9日までのデータしか含まれていません。

当然、現在インドで猛威を奮っている変異型についても分析対象外です。

そのため、これらの新しい変異型が、今回報告されたウイルスの季節性パターンに従うかどうかは不明。

それでも、新たに示された統計分析は、緯度によって症例数が減少することを示しており、この忌まわしいウイルスを封じ込めるための何らかの方法があることを教えてくれています。

これが今後ウイルスと戦っていくための希望につながっていくかもしれません。


参考文献

Novel coronavirus really is seasonal, study suggests(livescience)

元論文

Climate and the spread of COVID-19


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功