映画や小説の世界に登場するサイコパスたちは、よく好んでクラシックやジャズ音楽を聴いています。
例えば、『時計じかけのオレンジ』のアレックスは「雨に唄えば」を歌いながら女性を襲いますし、『羊たちの沈黙』に登場するハンニバル・レクター博士はバッハの「ゴルトベルク変奏曲」が好きです。
しかしこれはあくまで彼らの異常さを増長する演出であり、実際は異なる可能性があるようです。
ニューヨーク大学の研究によると、実際のサイコパスは、クラシックよりもラップ・ミュージックを好んで聴く傾向にあるとのこと。
文化的な背景も大きいでしょうが、私たちの映画や漫画などのサイコパスのイメージからは、少し意外な結果かもしれません。
研究は2017年に英メディアの「Guardian」で報道されています。
ラップを好み、ロックを嫌う傾向
研究チームのパスカル・ウォリシュ氏は、同大学の学生およそ200名を対象に調査を敢行。まず、学生には性格特性に関するアンケートに答えてもらい、学生全体のサイコパス傾向をスペクトラム型で表示しました。
次に、およそ260曲に及ぶ多ジャンルの楽曲を7段階で評価づけしてもらい、音楽の好みを判定しました。
そこから、サイコパス特性を強く示した学生の音楽の好みを調査すると、好き嫌いに明らかな傾向が見られたのです。
調査の結果、好きな曲はBlackstreet の“No Diggity”やEminem の“Lose Yourself”といったラップミュージック、さらにはJustin Bieberの“What Do You Mean”など軽いテンポのものでした。
反対に、嫌いな音楽は、Dire Straits’の“Money for Nothing”やKnackの“My Sharona”といったロック音楽だったのです。
サイコパスは歌詞がないものを好む?
なぜこうした好き嫌いの傾向が見られるのかはわかっていませんが、同研究チームのニコル・レアル氏は「サイコパス特性の強い人は、歌詞のないものや歌詞にあまり意味のないものを好む」と指摘。
これは、サイコパスの「共感能力の欠如」特性に関連するもので、作詞した人の感情や思いを表す歌詞に無関心なため、メッセージ性の強いロック音楽は好まないのではないかと推測しています。
しかし、ラップにもメッセージ性の強い曲は多くあるので、この説が正しいかは怪しいところ。さらに、クラシックやジャスには歌詞がないため、もしかすると、サイコパスがラップを好むのには、曲のテンポが鍵となっているかもしれません。
この結果から、サイコパスの音楽の好みにおける強固な特徴を発見できれば、反対に個人のプレイリストを見るだけでその人がサイコパスであるかどうかを判断することが可能になってくるかもしれません。
この方法を採用すれば、対象者に調査目的を伝えることなく実験することができるため、サイコパス特定に極めて有効になるのです。
というのも、一般的なアンケート調査であれば、サイコパスは質問内容から目的を推測して、自分の本心と異なる回答をおこなうからです。
また、遺伝子検査や脳波測定などもサイコパス診断には有効なのですが、こうした調査には本人の同意が必要なため、サイコパスにはするりとかわされてしまいます。
こうした理由から、プレイリスト診断方法は実に有効なのですが、研究はあくまで道半ば。そこで現在、研究チームは規模を大きくして、300万人を対象に調査をしているそうです。
現段階では証拠は不十分ですが、音楽と精神病理に関する研究は興味深く、社会的にも注目度の高いものとなるでしょう。
この研究でサイコパスの音楽に関する趣味嗜好が精密に特定されれば、近い将来、ipodやスマホを覗くだけで、誰がサイコパスか分かってしまう日が来るかも…。それはそれで恐ろしいものがあるような気がします。
この記事は2019年1月21日に公開したものを再編集して作成しています。
参考文献
Playlist of the Lambs: psychopaths may have distinct musical preferences
提供元・ナゾロジー
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