脳腫瘍をワクチンで治せる時代が来るかもしれません。
3月24日に『Nature』に掲載された論文によれば、脳全体に広がるため取り除くのが困難であった脳腫瘍に対して、有望なワクチンが開発されたとのこと。
ワクチンというとウイルスなどにかかる前に接種しなければならない「予防措置」という印象がありますが、今回の研究では既にかかっている厄介な脳腫瘍を後から治す方法として使われました。
「脳腫瘍をワクチンで治す」と聞くと、信じられないような話ですが、論文が掲載された『Nature』は権威ある科学雑誌として知られており、信ぴょう性は確かなようです。
いったいどんな仕組みでワクチンが、がんを治療したのでしょうか?
目次
脳腫瘍をワクチンで治療することに成功!
がんをワクチンで治す時代が来るかもしれない
脳腫瘍をワクチンで治療することに成功!
がん細胞は元々は私たちの体の一部が変異した存在であり、自分の体を攻撃しないようにプログラムされている免疫にとっては、苦手な相手でした。
しかし医学の進歩により、免疫を訓練するさまざまな方法が開発され、がん細胞を的確に認識できる免疫療法が開発されはじめています。
そこで今回、ドイツがん研究センターのプラテン氏らは、脳全体に広がる厄介な脳腫瘍として知られている、びまん性神経膠腫(こうしゅ)を「ワクチン」で治療できないかと考え、実験を行いました。
神経膠腫は脳全体に存在して、ニューロンに栄養を供給しているグリア細胞が、がん化してしまう病気であり、治療の難しいがんとして恐れられています。
今回プラテン氏らは、一部のがん化したグリア細胞の表面に、正常な細胞には存在しなタンパク質(IDH1)が存在していることに着目しました。
IDH1の一部を濃縮して体内にワクチンとして注射することで、免疫がIDH1を異物だと認識し、がん細胞ごと攻撃してくれると考えたのです。
そこでプラテン氏らは、動物実験を経て、人間に対する第一相の治験に踏み切ります。
結果、ワクチンは神経膠腫(こうしゅ)に対して非常に有望なワクチンとして機能することが判明したのです。
重症度が高い、びまん性神経膠腫の2年後の生存率は30%~57%ですが、ワクチンを注射した被験者の84%が3年以上生存し、63%の被験者では症状の進行が全く見られませんでした。
この結果は、ワクチンが恐ろしい脳腫瘍に対して非常に優れた治療効果を発揮することを示します。
がんをワクチンで治す時代が来るかもしれない
今回の研究により、脳腫瘍の中にはワクチンで治療できるものがあると示されました。
今回作られたワクチンはタンパク質をベースにした伝統的なものでしたが、mRNAを使った次世代型のワクチンを導入することで、さらなる効果を期待できます。
ワクチンによる治療法が拡大されれば、脳腫瘍だけでなく、胃がんや大腸がんなど様々ながんに対応するワクチンも開発される可能性もあります。
そうなれば、副作用の低い免疫療法として多くの人の命を救ってくれるかもしれません。
参考文献
Researchers Report Data from First Clinical Trial Assessing Brain Tumor Vaccine that Targets Specific Mutation
Mutation-Specific Brain Cancer Vaccine Tested
元論文
A vaccine targeting mutant IDH1 in newly diagnosed glioma
提供元・ナゾロジー
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