飲酒運転は非常に危険な行為です。
なぜなら飲酒によって注意散漫になり、事故する確率が大幅に上昇するからです。
飲酒が注意力を低下させることは一般常識ですが、その原因は最近ようやく解明されました。
アメリカ、テキサス大学アントニオ校ヘルスサイエンスセンターの研究者マーティン・ポーケルト氏らは、12月2日付の科学誌『nature communications』にて、エタノールが脳内で集中力を高める「ノルアドレナリン」の生成をブロックすると報告したのです。
目次
飲酒で注意散漫になるのは、ノルアドレナリンが抑制されていたから
ノルアドレナリンの行方が解明される
千鳥足とは関係がない?
飲酒で注意散漫になるのは、ノルアドレナリンが抑制されていたから
エタノールはアルコールの一種であり、一般的にエタノールが含まれた飲み物を「アルコール飲料」または「酒」と呼びます。
ポーケルト氏ら研究チームはアメリカのアルコール依存症研究所からの助成金によって、飲酒つまりエタノールが人の注意力を低下させる原因を調査しました。
その結果、脳内物質とエタノールの関係が新たに判明。
ポーケルト氏は次にように述べています。
「私たちが何かに集中したいとき、または椅子から立ち上がって活動的になるとき、脳幹はノルアドレナリン(またはノルエピネフリン)と呼ばれる化学物質を放出します」
「しかし、エタノール摂取がノルアドレナリン生成の信号を抑制してしまいます」
つまり私たちは通常、抗うつ剤としても有名なノルアドレナリン分泌によって集中力を高めていますが、飲酒するとノルアドレナリン生成が制限されるため、注意散漫になっしまうのです。
また今回の研究ではノルアドレナリンが制限される原因だけでなく、ノルアドレナリンが脳に与える影響も新たに解明されました。
ノルアドレナリンの行方が解明される
人間が集中力を必要とする場合、最初に脳幹にある青斑核(せいはんかく)からノルアドレナリンが分泌されます。しかし科学者たちはその後ノルアドレナリンがどうなるのか詳しく理解していませんでした。
今回の研究では、その分泌されたノルアドレナリンがバーグマングリア細胞の受容体に吸着すると判明。
このバーグマングリア細胞とは、小脳皮質に存在する細胞アストロサイトの一種です。
ちなみにアストロサイトにはシナプスや脳血流を制御する働きがあります。
さて受容体がノルアドレナリンを受け取ると、バーグマングリア細胞のカルシウム濃度が上昇し、細胞が活性化します。
研究チームは、当初バーグマングリア細胞のみに焦点を当てていましたが、実際にはアストロサイト全体で同様の現象が起こるとも分かりました。
ポーケルト氏は「私たちの発見は、アストロサイトが認知機能に積極的に関与しているという現在の提案と一致している」と述べています。
このように今回の研究では、エタノールがノルアドレナリン分泌を抑制することや、通常時ノルアドレナリンがどのような経路をたどるのか解明されました。
では、飲酒によって起きるバランス感覚の低下も、ノルアドレナリン抑制が関係しているのでしょうか?
千鳥足とは関係がない?
従来の知識によると、小脳は運動制御の役割を担っています。
そのためチームは、小脳の一部であるアストロサイトのカルシウム活性化をエタノールが阻むことで、運動能力が制限され千鳥足になるのではないかと予測。
ところが実験の結果、この予測ははずれていました。運動能力とノルアドレナリンによるカルシウム活性化には大きな関係が無かったのです。
ですから飲酒による運動能力の低下はまた別の経路で誘発されていると考えられます。
さて、今回の研究はエタノールが脳に与える影響を明確にしました。この発見は将来科学者たちが、脳に本来備わっている覚醒システムを解明するのに役立つでしょう。
それはつまりADHD(注意欠如・多動症)などの原因を解明・治療するのにも役立つかもしれないということです。
今後の研究に期待したいですね。
文・ライター:大倉康弘 編集者:やまがしゅんいち/提供元・ナゾロジー
参考文献
UT health
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