アルコール。

この魅惑の液体のために痛い目を見てきた方は数えきれないでしょう。

中毒性のあるこの液体は、良くも悪くも、数千年前から人類にとって重要な存在でした。

アルコールの作り方は世界中の古代文明が独自に発見しており、発酵法を見つけなかったのは、北極圏とオーストラリア先住民の一部くらいです。

では、なぜ人類はこれほどアルコールを愛してやまないのでしょうか?

その背景には、アルコール好きにならざるを得ない生物の歴史が隠されていたのです。

目次
人類が酒飲みになったのはなぜ?
アルコールで人類が得たメリットとは?世界最強のお酒はなに?

人類が酒飲みになったのはなぜ?

人類はあらゆるものをアルコールの材料にしてきました。

ブドウ、麦、蜂蜜、米、乳、樹液などなど、あげればキリがありません。

最古のアルコール飲料は、農業と同じくらい古いですが、人類がアルコール好きになる運命はもっと昔にありました。

お酒好きなのは何も人類だけではありません。

ショウジョウバエやレンジャク(スズメ科)は発酵した果物を好みますし、カリブ海に浮かぶセントキッツ島のベルベットモンキーはカクテルを盗み飲みすることで有名です。

私たちに近いチンパンジーもヤシ酒に酔っぱらう姿がよく目撃されています。

人類は遺伝的に「酒飲み」になる運命だった? 1億年前に隠された生物進化の秘密
(画像=ヤシ酒を飲むチンパンジー / Credit: bbc、『ナゾロジー』より引用)

こうした動物たちの行動をたどれば、今から1億3000万年ほど前にさかのぼります。

それは実をつける種子植物が登場した頃です。

種子植物は動物たちの新たな食料となり、私たちの古い祖先である初期哺乳類にとっても恵みとなりました。

微生物も例外ではありません。

「サッカロミケス属」という果実を好む酵母が現れ、果物を完全分解する代わりに、部分的に分解してエタノールを作る能力を身につけたのです。

人類は遺伝的に「酒飲み」になる運命だった? 1億年前に隠された生物進化の秘密
(画像=サッカロミケス属 / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

エネルギーの摂取には非効率的でしたが、果実を好む他の微生物にはアルコールが毒となるため有利に働きました。

また、サッカロミケスは熟した果実だけを食べるので、エタノールの匂いは食べ頃の果実を知らせてくれるサインとなります。

その内に、果実を好む哺乳類の中でも、エタノールの匂いを嗅ぎ分けて栄養豊富なものを見つけられる種が生存に有利になりました。

こうして、アルコールの味を好む性質が、生物学的な要素として私たち霊長類の古い祖先に加わったのです。

アルコールで人類が得たメリットとは?世界最強のお酒はなに?

ここで話を人類の時代まで一気に飛ばしましょう。

今から約1万年前、農業の誕生初期に、小集落で定住生活を始めた人々が、食料や飲料を発酵させる方法を見つけます。

これにより、余った食料(おもに穀類)の日もちが効くようになりました。酵母が活発になることで、食料を腐らせる細菌がいなくなるからです。

さらに、発酵によってビタミンB群をはじめとする様々な栄養素ができるため、食料がいっそう栄養豊富にもなりました。

発酵は液体の滅菌法にもなり、衛生状態の悪い初期の定住生活で、水より安全な飲み物が手に入るようになります。

また、アルコールの精神活性作用により、人数が増えて複雑になるグループの人間関係も円滑に進んだかもしれません。

人類は遺伝的に「酒飲み」になる運命だった? 1億年前に隠された生物進化の秘密
(画像=人間関係も円滑に? / Credit: jp.depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

では、人類がアルコールを作る発酵法をどうやって知ったのでしょうか?

これまでの研究によると、貯蔵していた穀類に酵母がたまたま混入し、誰かが発酵の秘密に気づいた可能性が一番高いとされます。

年代が確認できた最古のアルコール飲料は、中国の黄河近くの「賈湖(かこ)」という遺跡で見つかったものです。

約9000年前の壺の内部に、米とサンザシの実とブドウ、蜂蜜を混ぜて発酵させたものが入っていました。

他にも、5500年前のイランや3000年前のギリシャで、ビールとワインの走りのようなお酒が見つかっています。

人類は遺伝的に「酒飲み」になる運命だった? 1億年前に隠された生物進化の秘密
(画像=ギリシャ地方で見つかった酒壺 / Credit: oldest、『ナゾロジー』より引用)

その一方で、自然発酵には限界がありました。

酵母というのは徐々に自らの老廃物で腐食していくため、発酵させた飲料のアルコール度数は、最大でも15%ほどにしかなりません。

一般に親しまれるビールが4〜5%、ワインが13〜14%、日本酒や紹興酒が15〜17%なので、気分良く酔うには十分の度数でしょう。

しかし、人類は1000年ほど前に、発酵済みのアルコールを一度蒸発させて、再び凝縮し、さらに強いお酒に変える「蒸留法」を発明しました。

それにより、アルコール度数が40%を超えるバーボンやテキーラ、ウイスキー、ジン、ウォッカなどが誕生します。

人類は遺伝的に「酒飲み」になる運命だった? 1億年前に隠された生物進化の秘密
(画像=スピリタス / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

そして、蒸留を70回以上繰り返して作り上げた地上最強のお酒が、アルコール度数96%を誇る「スピリタス」です。

ポーランドで作られたスピリタスは、火を近づけるとすぐに引火するほどで、取り扱い注意となっています。

地元民は飲むようだけでなく、体臭予防や消毒にも使っているとか。

アルコールとは、ほどよい距離でつき合っていきたいものですね。

【編集注 2021.02.22 07:30】
記事内容に一部誤字があったため、修正して再送しております。


参考文献

『NewScientist 起源図鑑』


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功