一般的にテレビゲームは、子どもに悪影響を与えるという意見が多く聞かれます。
しかし、最近の研究で報告される内容は、むしろ良い影響に関するものが多く示されているのです。
2月19日に科学雑誌『Psychological Medicine』で発表された新しい研究は、ゲームのプレイが子どものメンタルヘルス(心の健康)を改善できる可能性が報告されています。
ただ、興味深いことにこの効果は男子だけに見られるもので、女子には効果がないという結果になったのです。
目次
座りがちな子どもに多いうつ病リスク
ゲームをしてる男子はうつ症状が改善される?
なぜ男子と女子で、ゲーム利用時のメンタルヘルスに違いが出るのか?
座りがちな子どもに多いうつ病リスク
今回の研究の筆頭著者はユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のアーロン・カンドラ氏です。
カンドラ氏は、以前に青年期のうつ病や不安のリスクを高める要因として、座りがちな生活が影響しているという研究を主導していました。
ただ、子どもの座りがちな行動というものには、さまざまなタイプがあり、研究ごとに結果がまちまちな状態でした。
性別の比較や、大勢の子どもを対象とした数年に渡る追跡調査というものもおこなわれていませんでした。
そこで、今回の研究チームは、イギリスで行われたミレニアムコホート研究(対象集団を決めて、一定期間観察を行う研究)の一部である、1万1341人の青年のデータを利用して、再調査をおこないました。
調査参加者はすべて11歳で、ソーシャルメディア、テレビゲーム、インターネットの利用頻度について回答していて、年齢ごとの気分の落ち込み、集中力の低下など、抑うつ症状についても回答していました。
この回答は、抑うつ症状とその重症度をスペクトル測定する臨床質問票によるものです。
つまり、今回の研究はゲームやネット、SNSの利用頻度から、座りがちな生活の子どもを割り出してして、メンタルヘルスへの影響を調べたのです。
この分析では、社会的経済状況、いじめの報告、過去の症状など結果に影響しそうな要因が考慮されています。
このように研究の目的は青年期(11歳~14歳)の座りがちな生活と、子どもの抑うつ症状に関するつながりを長期的な調査から見つけるものでした。
しかし、この研究は、意外な結果を発見したのです。
それがゲームのプレイ時間とメンタルヘルスの関連性だったのです。
ゲームをしてる男子はうつ症状が改善される?
研究者は、ほとんど毎日ビデオゲームをプレイしていた男子が、3年後、月に1回未満しかビデオゲームをプレイしなかった男子よりも、抑うつ症状が24%も少ないという事実を発見しました。
これはあまり活動的ではない少年が、テレビゲームからより多くの楽しみや、社会的相互作用を引き出すことができる可能性を示唆しています。
一方で、興味深いことに、女子にはこの傾向が見られませんでした。
女子の場合、11歳でほとんど毎日ソーシャルメディアを利用していた子は、3年後、月に1回未満しかソーシャルメディアをを利用しなかった子に比べて、13%高い抑うつ症状を示すという、うつ症状リスクが高まる結果は見つかりました。
しかし、男子のようにうつ症状が緩和されるという要因は、女子のケースでは発見できなかったのです。
この違いについて、まだ明確な理由は判明していません。これは因果関係を示すものではなく、あくまで関連性が示されたにすぎません。
なぜ男子と女子で、ゲーム利用時のメンタルヘルスに違いが出るのか?
ただ、男子の場合、ゲームの利用頻度が高く、そのためにソーシャルメディアの利用頻度が低くなっていました。女子の場合はこの逆です。
こうした男女のメディアの利用頻度の違いが結果に影響を与えていた可能性があります。
ソーシャルメディアの頻繁な利用は、他の研究からも社会的な孤立感を高めうつ症状と関連する可能性が示唆されています。
また、女子は男子より社会的な傾向が強く、メンタルヘルスを維持するために、物理的な接触を伴って他の人と一緒に活動する必要があるのかもしれないと推測されています。
ビデオゲームは、物理的な接触が制限されていて、ほとんどの場合はソロプレイの遊びです。
こうした要因が結果の違いに影響した可能性もあります。
いずれにしても、これらはまだ明確に証拠が示されたものではなく、男子と女子で結果に大きな違いが出た理由は不明です。
また、今回の研究はメディアの利用頻度を調べていますが、1日の利用時間などの詳細なデータがあるわけではありません。
1日の詳細なメディアの利用時間などから、もっと違った結果が導かれる可能性もあります。
また、親の育児方法や、関わっているグループなど、研究者がデータとして持っていなかった子どもの周辺状況に理由が存在する可能性もあります。
なんにせよ、今回の研究は座りがちな生活をする、あまり活動的ではない子どものメンタルヘルスについて調査したもので、メディア利用の危険性を明らかにしようとしているわけではありません。
研究者たちは、インターネットの利用やソーシャルメディアの利用頻度よりも、普段座りがちな生活を送ることのリスクの方が問題だと指摘しています。
ある程度活動的に生活することが、精神の健康のためには必要なようです。
また、今回の研究からビデオゲームでメンタルヘルスが改善されると明言はできませんが、少なくとも調査の内容からはテレビゲームが有害なものとは思われず、むしろ利点が多いように感じられる、と研究者は述べています。
「特にパンデミックの間、テレビゲームは若者にとって重要な社会的プラットフォームとなっています」とカンドラ氏は付け加えています。
テレビゲームのようなアクティブな画面を見ているときと、ソーシャルメディアのようなパッシブな画面を見ているときでは、異なる効果がある可能性が今回の研究では示されています。
参考文献
Boys who play video games have lower depression risk(UCL)
元論文
Prospective relationships of adolescents’ screen-based sedentary behaviour with depressive symptoms: the Millennium Cohort Study
提供元・ナゾロジー
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