ウィキペディアを見ていると、ついついリンクを辿りながら延々と記事を読んでしまう、そんな人は多いかもしれません。

科学雑誌『Nature Human Behavior』で発表された新しい研究では、そんなウィキペディアの閲覧行動を分析して、人の好奇心には主に2つのタイプがあったと報告しています。

通常、この手の研究はアンケートなどを中心に行われるので、ウィキペディアを利用するというのは興味深いアプローチです。

目次
ウィキペディアの閲覧行動から見る2つの好奇心タイプ
好奇心スタイルから見える、教育と感情的幸福の関係

ウィキペディアの閲覧行動から見る2つの好奇心タイプ

好奇心には2種類のパターンがある!? 「Wikipediaの閲覧行動」から明らかに
(画像=ウィキペディアの閲覧行動から、好奇心の分析を行った。 / Credit:Lydon-Staley et al,PsyArXiv Preprints,10.31234/osf.io/undy4、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究は米国ペンシルベニア大学の研究チームが、数学のグラフ理論を使用して、ウィキペディアユーザーの閲覧行動を分析しました。

実験は149人の参加者を使って、それぞれが21日間にわたって5時間以上ウィキペディアを閲覧し、合計1万8654ページが開かれました。

そして好奇心が続く限り、ページを閲覧するという行動をとってもらった結果、その閲覧行動は大きく2つのタイプに分類することができたのです。

それは多くの多様な情報を探索するタイプ「ビジーボディ(詮索好き、好奇心旺盛を意味する)」と、焦点を絞って集中的に知識を追うタイプ「ハンター」です。

こういった好奇心の傾向は以前から報告はありましたが、基本的にこうした研究はアンケートなどを中心として調査されます。

今回の研究は、ウィキペディアをうまく利用することで、人の持つ好奇心のスタイルを客観的に評価できた点が新しいと言えます。

研究では、ウィキペディアの各ページがノードとなり、2つのページ間のテキストの類似性などから、ページ同士の関連性をノード間のエッジとして表現し、ナレッジネットワークを形成して記録されました。

こうすることで、「ハンター」のスタイルを持つ参加者は、ノードがクラスター化しやすく、全体のパス長が短いタイトなネットワークを形成しました。

一方で広く浅く情報を閲覧する「ビジーボディ」のスタイルを持つ参加者は、ノード間のエッジが開いた、パス長の長い分離したゆるいネットワークを形成しました。

しかしこうした好奇心のスタイルは、参加者が常に個室しているわけではなく、時間経過に伴って変化していきました。

研究者たちはスタイルに影響を与える要因を理解するため、さらに参加者たちに幸福調査などのアンケートを使用し、何が行動に影響を与えているかを調査しました。

好奇心スタイルから見える、教育と感情的幸福の関係

好奇心には2種類のパターンがある!? 「Wikipediaの閲覧行動」から明らかに
(画像=好奇心のスタイルや、幸福感もブラウジングの傾向として現れている。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

調査によると、ハンタースタイルは、特定の知識のギャップを埋める必要性に駆られて情報を探しているように見えました。

一方で、ビジーボディスタイルは、まったく新しい知識に出会いたいという欲求を持っている傾向が示されました。

こうしたスタイルは、その人の幸福感に関連していて、ストレスの状況や社会との関わり方が影響を与えて変化していくようです。

貧困など自分に何か足りていないと感じることが多い人(剥奪感が高い)は、知識ギャップを埋めるような行動が目立ち「ハンター」の傾向を示します。

逆に、満ち足りているという感覚が強い人は、楽しみのために自分を驚かせる新しい知識を積極的に求める傾向がありました。

剥奪感が高い参加者では、たとえば「ドイツとユダヤ人の歴史」から「ヘプヘプ暴動」「シオニズム」など、ユダヤ人の歴史に集中して検索を続けましたが、反対のスペクトルを示した人では、「物理化学」から「MeToo運動」へ飛ぶなど、まるで関連しない知識のネットワークを示しました。

もちろん単なる幸福度だけの問題でなく、好奇心スタイルにはそれぞれに異なる動機や目的があるだろう、と研究者は述べています。

好奇心にこうしたスタイルが存在することは、教育がどうあるべきか? という問題も提示しています。

教室の中で、これらのデータがどう利用できるかを理解するには、まだまだ研究が必要ですが、生徒の好奇心のスタイルに合わせて知識の与え方を調整する方法が必要になるだろうと、研究者は語っています。

確かに、現在の学校教育では、幅広くいろんなことに興味を向ける人、まったく予期しない新しい知識との出会いを楽しみたい人には、うまく対応できません。

学校の勉強はあまり熱心になれなかったのに、大人になったら熱心にウィキペディアや科学サイトを閲覧しているという人も、世の中に多いのではないでしょうか?

それは1つの情報をひたすら追うより、新しい知識のつながりを構築することにワクワクする、「ビジーボディ」の好奇心スタイルを持っているためなのかもしれません。

好奇心には2種類のパターンがある!? 「Wikipediaの閲覧行動」から明らかに
(画像=学校の勉強への熱中度も、好奇心スタイルと関連していたのかもしれない。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

思い返してみると授業が面白い先生は、たまに話が脇道にそれて、まったく新しい知識や雑学を交えながら授業を進めていたような気もします。

ハンタースタイルの人は、そんな授業がよく脱線する先生は苦手だったかもしれません。

今回の研究は、そうした好奇心のスタイルを可視化できる仕組みの可能性を示しています。

将来的には、生徒の好奇心のスタイルに応じて、それを尊重して勉強させていく方法も提示できるようになるかもしれません。

深く知識を追求するのか、思わぬ新しい知識に出会い驚きと喜びを得るのか、なんにせよ好奇心は、私たちの幸福にとっても重要なものであるようです。


参考文献

sciencealert


提供元・ナゾロジー

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