私たちの仕事はおもに「肉体労働」と「頭脳労働」、そして「感情労働」に分けられます。
先の2つはよく知られていますが、3つ目の「感情労働」はどれくらいの方がご存知でしょうか。
これはアメリカの社会学者、A.R.ホックシールドが考案したもので、職場での感情調節を指しています。
例えば、「お客様には笑顔で接客」とか「同僚や上司には作り笑い」とかいったものです。
現代社会は感情労働を強いる仕事が多く、心理的なストレスを高めるとして問題視されています。
アリゾナ大学エラーカレッジ・オブ・マネジメントはこのほど、感情労働による疲労を軽減する方法として「深層演技」が効果的であることを発見しました。
一体、どんな対処法なのでしょうか。
研究は、『Journal of Applied Psychology』に掲載されています。
感情労働の2つの対処法、「表層演技」と「深層演技」とは?
感情労働は、人に会う職場であればどこでも必要とされます。
とくに接客業や医療従事者などは、その割合が強いでしょう。
怒りをこらえて作り笑いをするのはかなりのストレスですが、人はこうした感情労働を2つの方法で乗り切ろうとします。
それが「表層演技」と「深層演技」です。
表層演技とは、目に見える行動としての演技のことで、作り笑いや会釈、腰を低くするなどの身振りを指します。
表面的な感情のコントロールであるため、その下に隠れた当人の怒りや不安などは何も変わっていません。
一方の深層演技は、役者のように内側の心からそう思い込むようになり切る演技を指します。
こちらは、「道徳的に正しいとされる感情」に自らを合わせていく方法です。
例えば、知人や親戚が亡くなった際、周りがとても悲しんでいるのを見て「自分ももっと悲しまなければ」と考え、故人との思い出を回想し、悲しみを抱こうとする例です。
両者は外からの演技か、内からの演技かで異なりますが、どちらが感情労働でのストレス軽減に効果的であるかを調べたのが今回の研究になります。
深層演技は「ストレス軽減」や「目標達成」に効果あり
研究チームは、アメリカで正社員として働く被験者、2500名以上を対象に、職場での感情労働や対人関係、タスクの達成度などの関連性を調べました。
評価づけをもとに、被験者は「非アクター・低アクター・高アクター・レギュレーター」の4タイプに分類されています。
・非アクター=感情面での演技をほぼしない人
・低アクター=表層と深層演技を低レベルながら行う人
・高アクター=表層演技はしないが、深層演技を高レベルで行う人
・レギュレーター=両方の演技を高レベルで行う人
その結果、表層演技をあまりせず、深層演技に大きく頼る人ほど、心理的な疲労感が軽減していたことが判明しました。
逆に、表層演技ばかりに依存する人は、自分や他者を欺いているという感覚が強くなり、ストレスレベルが高くなっています。
また、非アクターでも心理的な疲労度は低いことがわかっています(感情の演技をしないので当然かもしれません)。
ところが、深層演技をする人にのみ、疲労の軽減に加えて、職場での対人関係や職務の質の向上が見られたのです。
研究主任のアリソン・ガブリエル氏は「深層演技は、気分の向上、同僚との関係性の改善、タスクパフォーマンスの向上など、多くの面でメリットがある」と述べています。
一方で、現在のような特殊な環境下(パンデミックとリモートワークの増加)で、深層演技が同じ効果を持つかどうかは分かっていません。
また以前の研究で、深層演技への頼りすぎは、職場・社会と個人の同一化が過度に進行し、アイデンティティの喪失にも繋がる危険性が示されています。
そのため、深層演技の機会を増やしつつ、適度に表層演技を織り交ぜていくのがベストでしょう。
参考文献
psypost
提供元・ナゾロジー
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