一部の地域では、カッショクペリカン(学名:Pelecanus occidentalis)が波に沿って海面すれすれを飛行する姿が見られます。

アメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校機械航空宇宙工学科に所属するイアン・ストークス氏ら研究チームは、この飛行方法が飛行に必要なエネルギーを完全に相殺していると発表しました。

ペリカンは波によって発生する上昇気流によって、ほとんどエネルギーを使わずに飛び続けていたのです。

研究の詳細は、3月22日付けの科学誌『Movement Ecology』に掲載されました。

目次
波乗りペリカンのエネルギー消費はほぼゼロだった

波乗りペリカンのエネルギー消費はほぼゼロだった

動画で見られるように、カッショクペリカンは海面すれすれを羽ばたかずに飛行します。

しかもよく観察すると、飛行中のペリカンの近くには小さな波が確認できるのではないでしょうか?

ペリカンたちはサーフィンのように波の上を滑っているのです。

ある時、サーファー兼飛行力学者であるストークス氏は、この「鳥の波乗り」を観察することで、ペリカンたちの飛行が環境流体力学と関係していることに気づきました。

そこから今回の研究が始まり、波が鳥に与える影響を計算することになりました。

その結果、波に乗るペリカンはほとんどエネルギーを消費せずに飛行していると判明。

「波乗りペリカン」のエネルギー消費はほぼゼロ
(画像=波に沿って低空飛行するなら局所的な上昇気流が得られる / Credit:Ian A. Stokes, Movement Ecology(2021)、『ナゾロジー』より引用)

波とは連続的な海面の急上昇の結果ですが、このとき海の斜面にあたる限定的な空間では上昇気流が発生します。

ペリカンたちはあえてこの空間に沿って低空飛行し、絶えず揚力を得ていたのです。

しかもこの時に発生する揚力は大きく、飛行に必要なエネルギーを完全に相殺するほどでした。

つまり、波に沿って低空飛行し続けるかぎり、ペリカンたちは体力をほとんど使うことがないのです。

今回の理論を利用するなら、ドローンを海上で長時間飛行させることも可能かもしれません。

また研究チームが述べているように、この現象は「流動的な海洋環境を巧みに利用する海鳥の能力の1つ」です。

今後も海鳥の分析を続けることで、物理学上の新しい知見が得られるかもしれません。

参考文献
The Wave Beneath Their Wings

元論文
Wave-slope soaring of the brown pelican

提供元・ナゾロジー

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