ウィリアム・アンド・メアリー大学(米)の最新研究で、アメリカ東部で採取されたハチミツに冷戦時代の放射性降下物が検出されたことが判明しました。
見つかったのは1950〜60年代の核実験で発生した「セシウム137」であり、放射能の恐ろしさが垣間見えます。
なお、人体に有害なレベルは下回っているとのことです。
研究は、3月29日付けで『Nature Communications』に掲載されました。
目次
他の食品の100倍のセシウム濃度を検出
原因は降雨だけじゃない?
他の食品の100倍のセシウム濃度を検出
ことの発端は、研究主任のジム・カースト氏が2017年に大学の講義で実施した課題でした。
カースト氏は、放射性物質がいかに環境中に広まっているかを示すため、休暇中に地元で入手した食材を持ち帰るよう学生に指示し、それらをガンマ線検出器で測定しました。
予想通り、フルーツやナッツにごく微弱の放射性物質が検知されたのですが、予想外だったのは、東部・ノースカロライナ州のスーパーで売られているハチミツに、想定した数値以上の「セシウム137」が見つかったことでした。
カースト氏は「検出器の故障かと思い、何度か測定しましたが、ハチミツには他の食品の約100倍の数値が検出されたのです。
冷戦期には核実験が何百回も行われ、その結果として大量の放射性物質が大気中に放出されました。
その内の一つがセシウム137で、これはウランとプルトニウムの反応を伴う核分裂の副産物です」と述べています。
研究チームは、ハチミツに高濃度のセシウム137が検出された謎を調べるため、東部の市場や養蜂家からハチミツを集め、検査しました。
122のサンプルを調べた結果、実に68個からセシウム137が見つかったのです。
冷戦期の核実験は、太平洋上のマーシャル諸島やロシア北部の北極諸島、アメリカ西部のネバダ州やニューメキシコ州で行われました。
カースト氏は「核爆発は非常に強力であったため、数十種の放射性物質が上空に放たれ、雲の中で各地に運ばれ、降雨によって地上に落下した」と説明します。
その一方で、アメリカ東部のハチミツは、降雨とは別のルートでセシウム137を吸収したと考えられています。
果たして、そのルートとは?
原因は降雨だけじゃない?
考えてみると、アメリカ東部は核実験が行われた場所から比較的遠方にあります。
それでも、核実験に近い場所の食品より多量のセシウム137が見つかりました。
一体なぜでしょう?
その理由について、カースト氏は「土壌中のカリウム濃度の低さが原因」と考えます。
カリウムは植物が代謝プロセスに必要な栄養源として吸収するものですが、今回のハチミツがある東部の土壌を調べると、カリウム濃度が低いことが分かりました。
実はカリウムとセシウムには原子的な類似性が多くあり、カリウムが少ない土壌で植物が十分な量の栄養素を摂取できない場合、代わりにセシウムを吸収することになります。
つまり、冷戦期に東部の土壌に降下したセシウム137が植物のミツに吸収され、それがミツバチに伝わり、ハチミツ中のセシウム濃度を高めていたのです。
不幸中の幸いで、ハチミツに検出されたセシウムは人体に危険な基準値を下回っていましたが、今回の結果は、私たちの背筋を凍らすのに十分な恐さがあります。
また、近年の科学界では、ミツバチをはじめとする受粉媒介昆虫の減少が問題視されています。
冷戦時代の核実験が、その主要な要因とは考えられませんが、カースト氏は「ミツバチのコロニーの崩壊や個体数の減少への影響は無視できない」と指摘しています。
参考文献
American Honey Still Contains Radioactive Fallout From Nuclear Tests Decades Ago
元論文
Bomb 137Cs in modern honey reveals a regional soil control on pollutant cycling by plants
提供元・ナゾロジー
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