世界保健機関(略称:WHO)によると、毎年、世界で1,000万人近くが新たにアルツハイマー病を含む認知症を発症しているとのこと。
フランス・パリ大学に所属する疫学者セヴリーヌ・サビア氏ら研究チームは25年にわたる調査データから、50代以降の人々は、睡眠6時間以下で認知症のリスクが高まると発表しました。
研究の詳細は、4月20日付けの科学誌『Nature Communications』に掲載されています。
目次
中高年の睡眠不足は、将来の認知症リスクを高める
睡眠と認知症のメカニズムは謎に包まれている
中高年の睡眠不足は、将来の認知症リスクを高める
睡眠不足と認知症の関連性を調査する研究はこれまでにも行われてきましたが、明確な結果は出ていませんでした。
それはこれまでの研究が高齢者のみを対象としていたり、調査期間が短かったりしたためです。
多くの場合、認知症の発現は数十年のスパンで進み、人生のかなり早い時期から始まる場合もあります。
そこでサビア氏ら研究チームは、イギリス人公務員10,000人以上の健康状態を1985年以来継続的に調査している「ホワイトホールII研究(Whitehall II study)」のデータを利用し、長期的な観点で、睡眠時間と認知症の関連性を調べることにしました。
今回の研究ではホワイトホールII研究のうち、7959名の25年間のデータが用いられたとのこと。
その結果、50代、60代の睡眠が6時間以下である場合、通常の7時間睡眠の人と比較して認知症のリスクが高いと判明。
また認知症にはそれぞれ精神因子、心代謝性因子、社会人口学因子、行動学因子があると考えられています。
ところが睡眠時間が持続的に短い中高年は、それらの危険因子とは無関係に認知症リスクが30%増加していました。
睡眠と認知症のメカニズムは謎に包まれている
ただし研究チームは、今回の結果は短時間睡眠と認知症の関連性が示されただけであり、そのメカニズムを解明したわけではないことを強調しています。
つまり統計的には、睡眠時間が短い中高年はのちに認知症になる確率が高いのですが、「なぜそうなるのか」分かっていないのです。
ですから「短時間睡眠が認知症を引き起こす」のではなく、「認知症の早期症状として睡眠障害がある」とも考えられます。
今回の研究に関与していないイギリス・ノッティンガム大学の認知症研究者トム・デニング氏は、「認知症は脳の変化に起因するので、認知症の人の睡眠パターンが乱れるのは当然のことです」と述べています。
いずれにせよ、睡眠時間が短い中高年の方は認知症に気を付けたほうがよさそうです。
同じく研究には関与していませんが、イギリスのアルツハイマー研究所の責任者サラ・イマリシオ氏は、次のように述べています。
「認知症予防の特効薬はありませんが、私たちの健康管理でリスクを減らすことは可能です」
十分な睡眠をとり、禁煙し、暴飲暴食を避け、心身ともに活動的であることが脳を健康に保つ秘訣なのです。
参考文献
Sleeping Less Than 6 Hours a Night Linked to Higher Dementia Risk, Scientists Show
元論文
Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia
提供元・ナゾロジー
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