運動不足を解消したいという人にとって、毎日長時間のトレーニングを行うというのはかなりハードルの高い課題です。

しかし、最近の研究では1日20分程度の運動でも十分な効果が得られるという報告も多く、さまざまな調査が進められています。

果たして、本当にそんな短時間の運動できちんとした効果はあるのでしょうか?

カナダとオーストラリアの研究者チームは、このテーマに関する10年分の文献レビューを行い、短時間の運動による効果のメカニズムや有用性について、興味深い発見をしたと報告しています。

この研究論文は、科学雑誌『Journal of Physiology』に3月24日付けで掲載されています。

目次


短時間でも効果的な運動


短時間でも効果的な運動

短時間の激しいトレーニング「HIIT(ヒット)」が、健康を改善する
(画像=多くの中年を悩ませるメタボリックシンドローム。でもなかなか運動不足は解消できない。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

運動不足はメタボリックシンドロームや糖尿病、心肺機能の低下など、さまざまな病気と関連づいています。

現在、世界保健機関(WHO)は成人が1週間あたりに、150~300分の適度な運動、または75分~100分の激しい運動を行うことを推奨しています。

しかし、多くの人は自身の運動不足とそれに伴うリスクを理解していながら、それでもなかなか運動できません。

その主な原因は、毎日運動するための十分な時間が取れないから、というのが大きいでしょう。

時間が取れないと「ちょっとやるだけじゃ疲れるだけで意味がない」と自分に言い訳して、面倒なトレーニングからは逃げてしまいがちです。

また、体力がない人が無理に激しい運動をしようとしても、辛くてやってられないという問題もあります。

無理のあるプランは結局長続きしません。

時間がない、体力がないという理由で運動不足に陥っている人たちは、これを解消することがかなり困難です。

けれど、最近の研究は、こうした人たちに希望を与える報告を行っています。

それが高強度インターバルトレーニング(HIIT)です。

HIIT(ヒット)は、短時間の高強度の運動とクールダウンを繰り返すトレーニング方法で、合計の運動時間も20分程度と短くて済むのが特徴です。

短時間の激しいトレーニング「HIIT(ヒット)」が、健康を改善する
(画像=30秒全力で走って20秒歩くというのもHIITの一例。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

多くの研究は、この運動でも十分な効果が得られると報告しています。

そして、今回の研究は、中でも特に少量で済むHIITに焦点を絞り、過去10年間の文献を調査して、その根拠を探りました。

少量HIITとは、合計トレーニング時間が20分以内、実際の高強度の運動は15分未満でも十分な効果があるというものです。

その結果、研究者たちは代謝の改善はミトコンドリア機能と、インスリン感受性の増強により引き起こされている可能性が高いことを発見しました。

また、心肺機能の改善は、左心室機能の増加と、中枢および抹消動脈コンプライアンス(柔軟性)が向上することで起きているようだと報告しています。

少量のHIITが効果を生む生理学的な理由を十分に理解するためには、さらなる研究が必要でしょう。

しかし、これらのメカニズムによって、WHOの報告よりもはるかに少ない時間とエネルギーで、代謝や動脈の健康、心肺機能に優れた改善をもたらすことが可能だといいます。

「WHOのガイドラインは、幅広い人口レベルで目的を果たすものかもしれませんが、専門家によって提供される調整された少量のHIITは、特に時間のない個人にとってより効果的な可能性があります」

今回の研究を報告している西シドニー大学のアンジェロ・サバグ博士はそのように述べています。

1日中座りっぱなしになることの健康リスクは、最近は多くの研究が報告している事実です。

パンデミックのために年間を通して運動が不足がちになっている人、また長時間の座り仕事に従事している人にとって、この研究は特に重要な報告かもしれません。

辛いトレーニングを健康のために無理して長時間続けることは無理でも、短時間のトレーニングを無理なく続けるなら頑張れるという人も多いでしょう。

短時間のHIITトレーニングは、長時間連続して行う運動より楽しく感じる人が多いという研究報告もあります。

無駄になることはないので、短時間でもいいから毎日運動するということが、重要なようです。

参考文献
Short, intense workouts prove a quick, effective way to improve health(new atlas)

元論文
Low‐volume high‐intensity interval training for cardiometabolic health

ライター:KAIN
大学では電気電子工学、大学院では知識科学を学ぶ。ナゾロジーでは趣味で宇宙関連の記事を書くことが多いです。そして特に求められていなくても、趣味でアラフォーに刺さるアニメ、ゲームネタを唐突にぶっこむことも。 科学が進歩するほど、専門分野は先鋭化し、自分と無関係な知識に触れる機会が減ります。しかし、自分には解決の糸口も見えない問題が、ある分野ではとうに解決済みの話かもしれません。問題を解決させるのはいつでも新しい知識とのふれあいです。先人の知恵、最新の発見、それが誰かの抱える問題解決の助けになるよう、現在は科学ライターとして活動中。

編集者:やまがしゅんいち
高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?。

提供元・ナゾロジー

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