脳の老化は鋭敏な判断能力を喪失させ、記憶・思考力を低下させるアルツハイマー病の原因だと考えられています。
アメリカ・スタンフォード大学医学部神経学科のカトリン・アンドレアソン博士らの研究チームは、1月21に付けの科学誌『Nature』にて、脳の老化原因の1つがミエロイド細胞(英訳:myeloid cell)にあり、この誤動作を止めることでマウスの認知機能が逆転したと報告しました。
その報告によると、免疫細胞の暴走が脳細胞を炎症させ、機能低下が生じていたとのこと。
目次
脳の炎症をブロックする実験で、マウス脳の機能低下を逆転させる
脳の老化の原因は、免疫細胞の暴走による炎症だった
ミエロイド細胞は、脳や循環器系、抹消組織に存在する免疫系の細胞であり、身体の兵士または管理者として働いています。
感染性の侵入者を撃退していないときは、死んだ細胞やタンパク質の破片を片付けたり、他の細胞に栄養を供給したりします。
また、侵入してくる病原体がいないか監視する役目も持っているとのこと。
しかし私たちが年齢を重ねるにつれて、ミエロイド細胞は機能不全に陥り始めます。通常の健康保護機能を無視し、存在しない敵と果てしない戦争を開始するのです。
当然、その過程で体内の無実な組織は攻撃を受け、ダメージを負うことになります。
つまり、老化に伴う脳の機能低下は、免疫系暴走の慢性的な炎症の結果だったのです。
ですから理論的には、このミエロイド細胞の影響を無くすことで脳機能の低下も止まると言えます。
研究チームはこの点を確かめるべく、マウスによる実験を行ないました。
脳の炎症をブロックする実験で、マウス脳の機能低下を逆転させる
研究チームは、炎症を引き起こす「経路」に注目しました。
まず、ミエロイド細胞の表面には「EP2」という受容体(信号変換器)があります。
そしてEP2に「PGE2」というホルモンが結合すると、PGE2が細胞内で炎症を引き起こすのです。
さらに今回の研究では、高齢のマウスやヒトの細胞にはEP2が非常に多く、PGE2の生産量も多いことが分かりました。
そこで研究チームはマウス実験にて、2つの化合物を用いてPGE2とEP2が結合する能力をブロックしました。
その結果、炎症を止めることができ、加齢に伴う認知機能の低下を逆転させることができたとのこと。
記憶力と空間把握テストにおいて、高齢のマウスが若いマウスと同等の性能を発揮したのです。
この結果は、人間でも特定の免疫機能をオフにすることで、老化による脳機能低下を改善できることを示唆しています。
また、アルツハイマー病の発症を遅らせることも可能かもしれません。
残念ながら、マウスに使用した2つの化合物は、現在ヒトへの使用が承認されておらず、有毒な副作用があるかもしれないとのこと。
しかし今回の結果は、製薬メーカーが安全に人間の脳の老化を遅らせる化合物を開発するのに役立つでしょう。今後の進展に期待できます。
参考文献
medicalxpress
ライター:大倉康弘
得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者:やまがしゅんいち
高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?。
提供元・ナゾロジー
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