一見、宙に浮いているように見えるこの構造物。
これはレゴブロックのカスタムモデル設計を手掛けている「JK Brickworks」が、「テンセグリティ」構造を利用してつくったものです。
実はこの不思議な構造は、世界中のあらゆるところに存在すると考えられており、その分野は自然界や人体にまで及びます。
テンセグリティの「無重力」の秘密は一体何なのでしょうか?
目次
テンセグリティとは
テンセグリティ(tensegrity)とは、「Tension(張力)」と「Integrity(統合)」の造語です。
一般的な構造物とは異なり、圧縮材(ブロック)が互いに接続されておらず、張力材(チェーン)とのバランスによって成立しています。
張力材には非常に細いものを使用可能なため、「宙に浮いている」ような構造物を作成できます。
テンセグリティの大きな特徴は、「少数の材料でも安定した立体が成立する」点です。そのため、剛性を維持しながら軽量化することも可能です。
また、圧縮材を組み合わせた構造物とは異なり、弾力性を持ちます。ですから、一部に力が加わったときに、構造物がたわむことで衝撃を緩和させることもできるのです。
テンセグリティの仕組み
JK Brickworksが作ったテンセグリティの仕組みを考えてみましょう。
2つの圧縮材がどのようにバランスを保っているかを考えれば、仕組みを理解しやすいはずです。
下側のブロックは、接地しており土台の役割を果たしています。こちらは単体で安定しますね。
続いて、上側のブロックにはたらく力を考えましょう。
上側のブロックには重力がはたらきます。当然、下向きの力がはたらくので、それをカバーするために上側ブロックのL字の先端を土台の先端を短いチェーンで繋いで支える必要があります。
当然、短いチェーンだけではバランスが悪く、上側のブロックは手前や後方に倒れてしまいますね。
これをカバーするために、T字部分と土台を2本の長いチェーンで繋ぎます。
そうすると、それぞれのチェーンが、重力や他のチェーンによって生じる力を絶妙にカバーしてくれます。
圧縮材と張力材の相互作用によって、全体としてバランスを保つことができ、崩れることがないのです。
実は、うまくバランスを取ってテンセグリティを成立させるためには、圧縮材に3本以上の張力材が接続されなければいけません。
ですから、「JK Brickworks」が作った2本の圧縮材と3本の張力材によるテンセグリティは、かなりシンプルなテンセグリティとなります。
そして、圧縮材と張力材の数を増やすことで、下図のように複雑なテンセグリティを作成することもできます。
さらに、テンセグリティを利用したアートも数多く作成されています。
テンセグリティは世界中に潜んでいる
テンセグリティ構造は、アートや建設物だけに見られるものではありません。
例えば、生物の細胞膜や人間の筋肉骨格系もテンセグリティだと考えられています。
人間は「骨(圧縮材)」と「筋肉(張力材)」によるテンセグリティであり、絶妙なバランスを成り立たせています。いわゆる「体幹」もテンセグリティによるバランスだと捉えることができるのです。
また、自然全体に見られる幾何学的パターン(DNAの螺旋など)も、テンセグリティの原則が見られます。
それらは、張力と圧縮の相互作用によって、材料を最小限に抑えつつ、弾力性を保持しています。
テンセグリティ自体は、レゴブロックとチェーンで簡単に作り出せますが、その仕組みは、「最も少ない材料で効率的に安定をもたらす構造」であり、自然界の至る所に存在しています。
見た目にも、構造学的にも、人々を魅了するテンセグリティ。身の回りから探してみると楽しいかもしれません。
参考文献
twistedsifter
wikipedia
提供元・ナゾロジー
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