犬の世界では神話のように小人と巨人が入り乱れています。
犬は地球上に生息する動物種の中で、単一種としては最も大きな外観の違いを「犬種」の形でもっていいるからです。
この奇妙な世界は人間による品種改良の結果作られました。
そこで気になるのは、犬はこの現実をどう思っているかです。
時には自分の十倍も大きく、あるいは十倍も小さく、顔の形も毛色もスタイルも異なる他の犬種を、犬たちは自分と同じ「犬」とカテゴライズして認識しているのでしょうか?
それとも大型の犬はウシや馬に、小型の犬はネコに近い生き物だと勘違いしているのでしょうか。
『Animal Cognition』に掲載された論文が、その答えを教えてくれるかもしれません。
目次
犬は犬をみつけるのが得意
犬は「違うことそのもの」を憎しみに変えない
犬は犬をみつけるのが得意
いくつかの心理学の入門書には、人間は多種多様な犬種をどうやって1つの「犬」として認識しているかを、考えさせる章があります。
鼻がつぶれているブルドックとスラリとしたコーギー、巨大なセントバーナードと小さなチワワ、耳がピンとしているドーベルマンとラブラドールと、犬は犬種によって大きく外観や鳴き声が異なるにもかかわらず、私たちは彼らをいっしょくたにして「犬」と呼びます。
これは、人間には異なる属性を排除して共通項を抽出し、本質となるものを見抜くという、高度な認知機能があるためです。
では、犬はどうでしょうか?
犬好きの人間ならば既に答えを知ってるかもしれません。
公園に散歩に出かけたりドッグランで犬に自由にさせると、犬たちは犬種にかかわらず、あっという間に集団を作り、一緒に遊び始めます。つまり経験的に言えば
「大きさや外観の違いにかかわらず、犬は犬を認識する」
となります。
今回の研究でも、犬たちは優れた認識能力を発揮し、研究者が用意した多種多様な動物の画像(ネコ・羊・牛・馬・人間そして多種多様な犬種)の中から、犬を的確に選び取りました。
自分にとって馴染みのない(みたことのない)犬種であっても、犬たちは犬を見事に認識していたのです。
犬を長年飼っている人にとっては「当たり前」のことかもしれませんが、驚くべきことに、科学的にこの問題に挑んだのは今回の研究が最初だったのです。
犬は「違うことそのもの」を憎しみに変えない
今回の研究により、犬も人間のように違いを排除して本質を見抜く能力があることが示されました。
犬たちは外観の著しい違いを克服し、互いに「同種」であると認識して一緒に遊び、共に生活することもできます。
しかし人間ならば、これは不可能だったでしょう。
ネアンデルタール人やデニソワ人をはじめとして、かつて人類と共に存在し、人類とも生殖可能だった複数のヒト属が絶滅している現実からも、人類の強い排除意識がうかがい知れます。
さらに人類の「違い」を意識する性質は同種内に対しても向けられており、肌の色だけでなく僅かな文化的な差異や法的な定義にすぎない国籍の違いからも、自分と他人の違いを強く意識し、利権を巡って争い合います。
しかし犬は特定の犬種を迫害したりなどしません。
元気なチワワ(小人)とたわむれる優しいセントバーナード(巨人)の姿は、人類には眩しすぎるのかもしれません。
参考文献
‘Mini Brain’ Organoids Grown in Lab Mature Much Like Infant Brains
Brain cell clusters, grown in lab for more than a year, mirror changes in a newborn’s brain
元論文
Long-term maturation of human cortical organoids matches key early postnatal transitions
提供元・ナゾロジー
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