「自然豊かな環境で子供たちを育てることは、子供たちの健康を促進する」という考えを持っている人は多いでしょう。
フィンランド・ヘルシンキ大学生物環境科学部の環境研究者アキ・シンコネン氏ら研究チームは、10月14日付けの科学誌『Science Advances』でこの考えを肯定する研究結果を発表しました。
彼女らの研究によると、子供の免疫力は森で遊ぶことで強くなるとのこと。
目次
自己免疫疾患と対策
保育園に小さな森をつくる実験
森で遊ぶ子供たちは免疫力を向上させた
自己免疫疾患と対策
西欧諸国では、体が誤って自分自身を攻撃する自己免疫疾患の発生率が上昇しており、それらには喘息、湿疹、1型糖尿病、炎症性腸疾患、多発性硬化症などが含まれます。
この原因を説明する仮説の1つに、「衛生仮説」というものがあります。
これは乳幼児期の衛生環境が個体の免疫系の発達に影響を及ぼしているという考えです。
現代の子供たちは以前に比べて少数の微生物にしかさらされないため、免疫システムがうまく発達せず、間違いを犯しやすいというのです。
研究チームは、この仮説にある「微生物の多様性と免疫機能の因果関係」を明らかにするため、フィンランドの都会の子供たちの生活環境を変化させる実験を行ないました。
保育園に小さな森をつくる実験
この実験には、フィンランドの2つの都市に住む75人の子供たちが参加しました。
彼らは皆3~5歳であり、28日間、朝と夜は自宅で、日中は10か所の保育園でそれぞれ過ごした後、免疫機能の変化を検査しました。
そして保育園は次の3種類に分類されています。
①改装保育園(4か所)。都会の標準的な幼稚園に小さな森(土、草、芝、コケ、低木、植栽箱)を導入しています。
②標準的な都市型保育園(3か所)。緑地はほとんど無く、全く無い所もあります。
③自然志向の保育園(3か所)。子供たちは毎日近くの森に連れていかれます。
子供たちはそれぞれ保育園特有の環境で過ごしましたが、特に改装保育園では1日1.5時間、植物や土で遊ぶよう勧められました。植物を植えたり、天然素材を使って工芸品を作ったりしたとのこと。
保育園の食事はすべての場所で同様の物が与えられており、自宅での生活様式は指定されておらずランダムです。
森で遊ぶ子供たちは免疫力を向上させた
実験の結果、①改装保育園で過ごした子供たちは、自然の少ない②標準型保育園で過ごした子供たちよりも、皮膚の微生物の多様性が30%以上増加し、腸内細菌にも大幅な増加が確認されました。
さらに子供たちの血液サンプルからは、抗炎症性サイトカインや制御性T細胞など、免疫系に関連する様々なタンパク質や細胞に有益な変化が表れたのです。
この免疫上の良い変化は、③自然志向型保育園の子供たちでも同様に観察されました。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの免疫学者グラハム・ルーク氏は、「この研究は、子供たちを生物多様性のある自然環境にさらすことで、本質的な制御メカニズムのいくつかが高まることを示している」と述べています。
さて、今回の実験で利用した改装保育園の改装費用は5000ユーロ(約61万円)でした。改装費用としては十分現実的な金額であり、近くに森林がなくとも比較的簡単に子供たちの免疫向上が可能だと分かりますね。
ただし、英国レディング大学のグレン・ギブソン博士はこれが重要な研究であることを認めつつも、「微生物の多様性が必ずしも重要だとは思いません。実際、高い免疫機能は多様性が低くても発生する可能性があります」と述べています。
子供たちが森で遊ぶことは免疫系に良い影響を与えますが、さらなる研究は必要でしょう。
今後研究チームは、砂場に多様な微生物を存在させて、森林や土が無い場所でも子供たちの免疫力を向上させられるかテストする予定です。
参考文献
theguardian
提供元・ナゾロジー
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