一部の御年輩の方々が語る苦労話には、注意が必要かもしれません。
1月17日に『SAGE jounals』に掲載された論文によれば、一部の高い地位にいる人は「若い頃の苦労」や「生まれの貧乏さ」を、ほぼ嘘のレベルまで誇張する傾向があるとのこと。
魅力のない上司から聴かされる苦労話ほど退屈なものはありませんが、嘘の可能性まであるとすると聴き手の苦痛はより一層高まりそうです。
しかしどうして彼らは、自分の過去に嘘をついてしまうのでしょうか?
目次
自分の人生がハードモードだとアピールする成功者たち
偽装は実力不足を隠すためだった
真のハードモード攻略者を見抜け
自分の人生がハードモードだとアピールする成功者たち
研究の契機となったのは、よく有名人や大企業の経営者たちなどが語る、自分史に対する違和感でした。
成功者として紹介された一定数の人々は、両親が既にリッチであるにもかかわらず、自分の人生が「困難に満ちた不利な状態」からはじまったと語っていたからです。
そこで今回、研究者たちは、この奇妙な事実誤認の正体を調べることにしました。
語られた嘘が、その場しのぎのものではなく、もっと大きな、人間の本質にかかわる問題だと考えたからです。
調査にあたっては大企業の社長や幹部、有名人など175人の「成功者」たちに対して、巧妙に仕組まれたインタビューを行い、自分の歴史を語らせました。
すると175人のうち24人(14%)は、親がリッチであったにもかかわらず、自分の生まれを貧困層や労働者階級だと答えました。これは明らかな嘘です。
また12人(7%)は自分の生まれが恵まれていることは否定しないものの、異常なまでに先祖の苦労を強調し、それを自分の苦労のように語るという、不可解な論理(家族史を自分史にする)を展開しました。
この結果は、少なくない成功者(約5人に1人)が、人生の出発地点をハードモードに偽装していたことを示します。
しかし、なぜ彼らはリッチな環境で育った事実を隠したのでしょうか?
偽装は実力不足を隠すためだった
なぜ一部の成功者たちは、生まれの豊かさを隠すのか?
謎を探るために研究者たちはインタビューの記録を詳しく調べました。
すると、生まれの環境に嘘や誇張を混ぜていた人々は、今の高い地位に昇りつめた要因を「人間としての高い精神性」や「長時間労働」としていることがわかりました。
リッチな両親から受けた英才教育や資金投資を意図的に言わずにおくことで、成功を自身の実力に結びつけようとしていたのです。
話題が親の豊かさや親からうけた支援になると、彼らは自分よりも多くの経済的援助を受けた同僚に会話をむけることで、支援の事実をぼかしました。
さらに彼らは自分と現在の仕事とのかかわりを話すときに、一定の「文法」を用いることがわかりました。
過去の偽装者は、自分は「業界」にとってかつて異分子であり、いわれなき差別を受けて苦しんだが、必死になって努力することで、差別を打ち負かしてついには成功した…という「闘争」の過程を話に組み込んでいたのです。
これらの結果は、過去の偽装を行う人間は、自分の能力を実力以上にみせようとしていることを示します。
若い頃の苦難や生まれの貧しさを偽装するのも、現在の高いの地位とのギャップを際立たせ、他人に対するマウンティング(優位性の誇示)をおこなうためだったのです。
真のハードモード攻略者を見抜け
人生は不平等です。
だからこそ、私たちは逆境を乗り越えて成功した人々に対して、賞賛の声を送ります。
積み上げてきた努力、打ち破った壁の大きさ、そして支払った数々の自己犠牲はドラマそのものだからです。
しかし、親がリッチであり、親のお陰で英才教育を受けたり資金を借りたりなどしてリッチになった人々は、この賞賛を受けられないかもしれません。
そのため、少なくない人々が自分の経歴に対して偽装を行い、苦難を乗り越えた実力者のふりをします。
汚い大人の世界と言ってしまえば一言ですが、最も被害を受けるのは、真に称賛されるべき人々です。
そのため実力主義を理想とするならば、偽装者を見抜く能力が必要だと研究者は最後に述べました。
若い頃の苦労話や生まれの貧しさをアピールしてくる人間が近くにいるのなら、注意する必要があるのかもしれませんね。
元論文
Deflecting Privilege: Class Identity and the Intergenerational Self
提供元・ナゾロジー
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