孤独は人々を悩ませるネガティブなものとして扱われてきましたが、最近の研究により「孤独な脳」では科学者でも想定外の領域が発達していると判明しました。
カナダにあるマギル大学医学部医用生体工学科に所属する神経学者Danilo Bzdok氏ら研究チームが、12月15日付の科学誌『nature communications』にて、孤独な人々の脳は、空想、回想、創造などの作業を行う脳領域の接続性が向上していると発表。
長期的に社会的経験を奪われた脳は、脳内活動増加により、内部ネットワークを向上させていたのです。
目次
4万人を対象とした「孤独な脳」の研究
長年の孤独が創造力やシミュレーション能力を向上させる
4万人を対象とした「孤独な脳」の研究
現在、世界中で新型コロナウイルスが蔓延しており、一部の人々は孤独に追いやられています。
しかし、孤独が人間に与える生理的影響についての研究は少ないようです。
Bzdok氏も「我々は孤独が与える脳への影響を理解し始めたばかり」だと述べており、孤独な脳への理解を深めるために新しい研究に取り組みました。
彼らは高齢者を含む4万人の被験者の脳画像を調査することで、一般的な人と孤独な人の脳の違いに目を向けました。
特に研究チームが注目していたのは、脳の灰白質(かいはくしつ)と白質(はくしつ)の組成です。
灰白質とは脳画像における灰色の部分であり、神経細胞の細胞体(核)が存在しています。
対して白質は、脳画像における白色の部分であり、神経細胞の連絡路として機能します。
また研究チームは脳の様々な領域がどのように通信するか理解しようとしました。
当初、チームは孤独によって脳領域の接続性が低下するだろうと予想していました。
しかし研究の結果は、チームの予想を大きく覆すものだったのです。
長年の孤独が創造力やシミュレーション能力を向上させる
研究の結果、孤独な脳は孤独ではない脳に比べて、灰白質のボリュームが大きく、白質の構造がはっきりとしていると判明。
そしてこれらの要素と関連していると思われますが、想像やシミュレーションなどのタスクに特化した脳領域「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」の接続性が増加していました。
DMNとは人間が外部に関連するタスクに焦点を当てていない時に活発になる領域です。
例えば、「人と話す」「仕事をする」「走る」などの意識的な活動を行なっている時や外部の特定の何かに集中している時は、DMNが不活発な状態です。
しかしコーヒーを飲んで休憩している時や、一人でお風呂に入っている時などは、頭の中でとりとめのないことを考えるものです。DMNはこのときに活発になっています。
そしてDMNは脳内の情報処理や、蓄えられた情報の接続に関連しているとのこと。
つまり、DMN領域が活発であれば、脳内の情報が整理され、創造力が高まるのです。
孤独な脳ではDMNの接続性が向上していたことから、孤独が回想、想像力、創造的思考、シミュレーション能力を発達させていると考えられます。
しかし、2019年の研究では孤独な若年成人のDMNの接続性が低下したと報告されています。
今回の研究対象の平均年齢が50代半ばであったことから、長年にわたる絶え間ない孤独がDMNの接続性を向上させると考えられます。
さて、孤独は一般的にネガティブなものだと考えられています。しかし孤独であり続けた人は高い創造性を獲得するのです。
これは芸術家などの一部の人には朗報だと言えるでしょう。
参考文献
newatlas
提供元・ナゾロジー
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