「ミイラの作り方」について、現存する最古の解説書が発見されました。

デンマーク・コペンハーゲン大学の古代エジプト学者、Sofie Schiødt氏は、最近になって再発見された約3,500年前のパピルスを解読し、編集。

その中に、防腐処理(ミイラ化)についての新たな記述が発見され、今まで知られていなかった詳細なマニュアルが明らかになりました。

一体、どんな内容が記されていたのでしょうか。

目次


読み手は「プロの防腐処理者」を想定?
ミイラ化は「4日サイクル」で行われていた!


読み手は「プロの防腐処理者」を想定?

今回調査されたパピルスは、2つの断片からなり、1つはパリのルーヴル美術館に、もう1つはコペンハーゲン大学のカールスバーグ・コレクションに所蔵されていました。

そのため、「パピルス・ルーヴル-カールスバーグ(Papyrus Louvre-Carlsberg)」と呼ばれています。

長さ6メートルに達するこのパピルスは、紀元前1450年頃のもので、薬剤や皮膚病を取り扱った医学文書の一部です。

その中に、防腐処理に関する短いマニュアルが発見されたことに、専門家らは驚きを隠せません。

古代エジプト人にとって、防腐処理は非常に神聖な技術であり、限られた少数の人にのみ口頭で伝えられていました。

その証拠に、防腐処理に関するパピルスはほぼ存在せず、これまでに見つかった記録はわずかに2つ。

いずれも今回のパピルスより1000年以上後の時代に書かれたものです。

「ミイラの作り方」の最古のマニュアルを発見! 防腐処理の手順に新事実が記されていた
(画像=パピルス・カールスバーグの一部 / Credit: The Papyrus Carlsberg Collection, University of Copenhagen、『ナゾロジー』より 引用)

パピルス・ルーヴル-カールスバーグを翻訳したSchiødt氏は、以下のように述べています。

「新たに判明した防腐処理のマニュアルは、あとの2つのパピルスには見られない記述がほとんどで、非常に細かい工程の記録でした。

想定されている読み手は、明らかに素人ではなく、防腐処理について知識のあるプロと見られます。

テキストは、防腐処理に必要な薬液のレシピや、様々な種類の包帯の使い分けなど、覚えきれない箇所が記されており、遺体の乾燥法といった基本のプロセスは省かれていました。」

では次に、新たに判明したマニュアルについて見ていきましょう。

ミイラ化は「4日サイクル」で行われていた!

まず、これまでに分かっている防腐処理(ミイラ化)の流れを説明しますと、

・第一に、遺体から脳を含む臓器を取り出す

・次に、胸部内と腹腔を殺菌処理し、体液を排出させて、体の腐敗を止める

・最後に、ナトロンを用いた混合液で遺体を乾燥させ、リネン(亜麻布)で包み、石棺に入れる

これが既知の大まかな流れですが、パピルスの解読により、実際はより細かなステップを踏んでいたことが分かりました。

それによると、防腐処理は全体で70日間かけて行われ、35日の乾燥期間と35日のラッピング期間に分けられます。

乾燥期間では、遺体の洗浄、臓器の摘出、および眼球の崩壊が終わった4日目にナトロン処理が開始されます。

また、防腐処理は原則として4日間隔で行われるという重大な新事実が発覚しました。

具体的には、4日間の遺体処理のあと、4日間のインターバルが設けられ、その間に故人の肉体的な回復が進んでいることを祝う儀式的な行列が催されます。

それが終わると再び4日間の遺体処理に入り、記録によれば、70日間で合計17回の行列が行われていたようです。

インターバルの間、遺体は害虫を寄せ付けないよう、芳香剤を入れた藁と布で覆われていました。

「ミイラの作り方」の最古のマニュアルを発見! 防腐処理の手順に新事実が記されていた
(画像=赤いリネンで顔を覆う / Credit: Ida Christensen, University of Copenhagen、『ナゾロジー』より 引用)

前半の乾燥期間が終わると、後半の35日間は、顔の防腐処理と芳香剤の塗布、最後にリネンで全身を包む作業に当てられます。

顔の防腐処理は、植物由来の芳香物質とバインダー(結合剤)からなる混合液を赤色のリネンに浸し、それを顔に貼り付けます。

これにより、顔全体が抗菌性物質に覆われて、腐敗がストップするとのことです。

この手順は初めて知られたものですが、以前、顔が赤いリネンで覆われたミイラが数体発見されたことがあり、マニュアルと合致します。

最終的にミイラは68日目に仕上げられ、棺に納められた後、残り2日間は死後の世界に送るための儀式をします。

以上が新たに判明したマニュアルであり、ミイラの作り方は予想以上に奥が深かったようです。

参考文献
Ancient Egyptian Papyrus Reveals Secrets to Embalming the Face!
Ancient Egyptian manual reveals new details about mummification

ライター:大石航樹
愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者:やまがしゅんいち
高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?。

提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功