新種の生物発見は、なにも未開の地域ばかりから報告されるわけではありません。
生物学の中では、これまでずっと1種と思っていたものが、実は別々の種だったという隠れ新種の発見もあるのです。
11月5日にオープンアクセスジャーナル『Ecology and Evolution』で発表された研究では、南極周辺に広く生息するジェンツーペンギンが実は4種の別々のペンギンであったと報告しています。
これらのペンギンは遺伝的に異なるだけでなく、物理的にも異なることが初めて明らかになったと研究チームは語っています。
目次
種とはなんなのか?
実は4種だったジェンツーペンギン
種を再分類する意義
種とはなんなのか?
生物の種という言葉はよく聞きますが、そもそも生物分類学における種の概念とは何なのでしょう?
種の定義には、1942年にマイヤーという研究者によって提案された「同地域に分布するとき、自然条件下で交配し子孫を残す生物グループ」という考え方が適用されています。
これはよく似た動物でも、近くに住んでいるのに交配しようとしないなら別々の種として考えましょうということです。
なので別種だからといって交配できないというわけではありません。人間が強制交雑によって植物の品種改良を行ったり、犬類に雑種が誕生したりするように交配自体は可能な場合があります。
種の分類については、よく似た動物がバラバラの生息地を持っていた場合、それが同種なのか別種なのか判断しづらいという問題を含んでいます。
そのため、私たちは多くの進化の枝を見落としている可能性があります。2016年に発表された研究では、世界の鳥類種について、これまで我々が考えていた数の2倍近い1万8000種いるという推定も報告されています。
実は4種だったジェンツーペンギン
ジェンツーペンギンはアデリーペンギン属の中型のペンギンで、両目の上に白い独特の斑点を持つのが特徴です。サイズは50cmから90cmほどで、すべてのペンギンの中でもっとも泳ぐのが速いと言われています。
これまでの研究で、ジェンツーペンギンは生息する地域の違いなどから、サウスシェトランド諸島と南極半島に生息する「P. p. ellsworthi」とそれ以外の地域に生息する「P. p. papua」の2つの亜種に分類できるとされていました。
しかし、種としての分類学的な調査はまだ本格的に行われていませんでした。
上の地図が南極大陸を中心にしたジェンツーペンギンの生息地です。彼らは南半球のさまざまな緯度に生息していて、一部のコロニーはインド洋の島や南大西洋の島にも及んでいます。
地図の色付き三角が今回研究で調査されたペンギンたちのコロニーです。青がフォークランド諸島(FALK)、ピンクがサウスジョージア諸島(SGI)、緑がサウスシェトランド諸島及び南極半島(SSHWAP)、黄色がインド洋のケルゲレン諸島(KERG)です。
今回の研究チームは、これら生息地域の異なるジェンツーペンギンのDNAを調査し、彼らが1つの種ではなく4つの種に分類できるという遺伝的・形態学的差異を発見したのです。
遺伝子データに基づく主成分分析(左)。SNP(一塩基多型)に基づく分析(右)どちらも異なる4種にジェンツーペンギンを分類できる。 遺伝子データに基づく主成分分析(左)。SNP(一塩基多型)に基づく分析(右)どちらも異なる4種にジェンツーペンギンを分類できる。 / Credit:Joshua Tyler,Ecology and Evolution(2020) 今回の研究の筆頭著者、バース大学のジョシュ・タイラー氏は「素人目には彼らは非常によく似ていて見分けが付きませんが、彼らの骨格を測定すると、骨の長さやくちばしの大きさや形が統計的に異なっています」と物理的にも彼らに違いがあることを説明しています。
この研究からジェンツーペンギンは、共通の祖先を持ちながらも4つの異なる種に独立して進化していたことが示唆されたです。
研究チームは今回の調査結果から、既知の2つの亜種「P. p. ellsworthi」と「P. p. papua」を種レベルに昇格させる必要を述べており、またさらに2つの新種「P. poncetii 」と「P. taeniata」を作成することを提案しています。
種を再分類する意義
ジェンツーペンギンはほぼ同じ外見をしていて、生息地もそれほど離れているわけではありません。
しかし、新しい研究ではこのペンギンたちが互いにほとんど関係のない4つの個体群に見えるのだといいます。
研究チームの1人、バース大学の集団ゲノム学の研究者ジェーン・ヤンガー博士は次のように説明しています。
「ジェンツーペンギンは自分たちの生まれたコロニーに固執する傾向があり、それが何十万年もかけて地理的に隔離された状態になり、お互いに交配しないようになってしまったのでしょう。これが種の本質的な概念なのです」
もちろん今回の発見は、当の動物たちにとっては何も変わらない問題ですが、人類にとっては各種の習性や保全状況の見直しを迫られることになります。
1つの種と見なしていた動物が、異なる種に分類されるとその個体数の変化で、国際自然保護連合の『IUCN絶滅危惧種レッドリスト』が定義している種の脅威状態も変わってくるからです。
現在、ジェンツーペンギンの数はかなり安定しています。しかし、温暖化が進むにつれて北の個体群は南に移動するという証拠もあるため、今後の彼らの変化は注意深く監視する必要があるでしょう、とヤンガー博士は述べています。
この論文が提案した新しいペンギンの分類については、科学者たちの国際委員会が話し合いを行っているとのこと。
ペンギンの種は現在全部で18種とされていますが、近いうちにこの数は21種に書き換えられることになるかもしれません。
参考文献
University of Bath
提供元・ナゾロジー
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