ストレスでハゲるメカニズムが解明されました。

3月31日に『Nature』に掲載された論文によれば、ストレスホルモンが皮膚細胞に伝わり、マウスの発毛を休止させるまでの具体的な流れが解明されたとのこと。

これまでストレスとハゲの関係は度々報じられてきましたが、どのホルモンがどの細胞に作用して、どんな遺伝子に影響を与えるかといった、一連の流れを解明するまでには至りませんでした。

いったいどんな仕組みで、ストレスは頭をハゲ上がらせていたのでしょうか?

目次

副腎の摘出でモフモフになる

ストレスでハゲる仕組みが明らかに
(画像=副腎を摘出されたマウスは素早く発毛する / Credit:Nature、『ナゾロジー』より 引用)

ストレスでハゲ、脱ストレスで再び毛がはえてくる。

この現象は、毛包が一時的な休止期に入ってしまうことで起こることが知られています。

しかし、休止期を引き起こす具体的な仕組みはわかっていませんでした。

近年になって行われた研究では、ラットやウサギなどの動物から副腎を抜き取ると、毛の量が増えるという奇妙な現象が報告されていました。

そこでハーバード大学の研究者たちは、マウスにおいても同じように副腎の摘出実験を行いました。

その結果、マウスでも発毛量が増加してモフモフに。

詳しく分析したところ、副腎を失ったマウスでは発毛サイクルにおける休止期が異常に短くなっており、3倍の速さで発毛が起きていることが判明します。

また驚くべきことに、副腎摘出による発毛効果は、老化したマウスにおいてもみられました。

マウスも人間と同様に老化によって体毛が薄れていくのですが、手術によって副腎を摘出すると、老マウスの体でも次々に発毛して、フサフサになっていったのです。

この結果は、副腎が分泌する何らかの物質(ホルモン)が、毛に発毛しないよう働きかけていることを示します。

いったいどんな物質が、発毛を抑制していたのでしょうか?

ストレスホルモンは発毛に必要なタンパク質(Gas6)を減らしてしまう

ストレスでハゲる仕組みが明らかに
(画像=毛を刈られたあとの発毛実験。コルチコステロンを注射されるとハゲたままになる / Credit:Nature、『ナゾロジー』より 引用)

副腎が分泌する発毛抑制物質は何か?

研究者たちが調査を行った結果、発毛にかかわる物質の正体が、人間のコルチゾールに類似したコルチコステロンというホルモンであることが判明しました。

コルチゾールやコルチコステロンはストレスに最も関連深いホルモンとして知られており、ストレスの「バイオマーカー」として様々な研究で用いられています。

バイオマーカーとは病気の有無や、進行状態を示す目安となる生理学的指標のことです。

そこで研究者は試しに、ストレスのないマウスに対してコルチコステロンを注射。

その結果、コルチコステロン注射を受けたマウス発毛量が減少してハゲに近い状態になったことが確認できました。

次に研究者たちは、このコルチコステロンに反応する細胞を、マウスの体から探し出しました。

すると、「真皮乳頭細胞」と呼ばれる毛を支える細胞がコルチコステロンに反応し、毛の成長に重要な役割を果たす「Gas6」と呼ばれるタンパク質の分泌を抑制していることがわかりました。

加えて逆にGas6を過剰に発現させるように遺伝子治療を施されたマウスでは、ストレスが多い環境でも発毛量を維持することが可能であることも示されます。

以上の結果から、

①ストレスの多い環境が副腎からコルチコステロンを放出させる

②コルチコステロンが真皮乳頭細胞に作用する

③発毛にとって重要なタンパク質であるGas6分泌が減る

④発毛サイクルが休止期に入る

という一連の流れが解明されました。

ストレスとハゲに関しては様々な研究が行われていますが、その原因から細胞や遺伝子、タンパク質レベルまでの一貫した因果関係を示せた例は珍しく、今回の研究は革命的だと言えます。

ハゲの治療薬が実現する

ストレスでハゲる仕組みが明らかに
(画像=夢のハゲ治療薬になるか? / Credit:Canva、『ナゾロジー』より 引用)

今回の研究により、ストレスとハゲを結びつける分子レベルでのメカニズムが解明されました。

そのため休止期によるハゲに対抗するには、

①コルチコステロンの分泌を阻害する

②真皮乳頭細胞がコルチコステロンに反応しないようにする

③タンパク質Gas6を毛包に直接供給する、あるいは遺伝子治療で過剰にGas6を生産させる

など様々な方法が可能になるかもしれません。

研究者たちは今後、これらマウスで得られたデータを人間の発毛に応用する方法を探していくとのこと。

マウスと人間の発毛システムにはいくつかの違いが存在していますが、マウスを通して哺乳類の発毛システムを理解することができれば、人間用のハゲ治療薬が開発できるかもしれません。

参考文献
High Stress Hormone Levels Halt Mouse Fur Growth
Relax to grow more hair

元論文
Corticosterone inhibits GAS6 to govern hair follicle stem-cell quiescence

ライター:川勝康弘
大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者:やまがしゅんいち
高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?。

提供元・ナゾロジー

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