目次
意味飽和とは
意味飽和を探るジェームズ氏の実験
意味飽和は私たちに心地よさを与える場合がある

言葉の意味が分からなくなる「意味飽和」とは? 同じ言葉の繰り返しは人を気持ちよくさせる
(画像=Credit:nazology、『ナゾロジー』より引用)

point

  • 意味飽和とは、知っているはずの言葉の意味が一時的に分からなくなることである
  • 意味飽和は同じ言葉に対する脳の反応が鈍くなることから生じる
  • 同じ曲を何度も聴くことで歌詞の意味飽和が起こり、音楽と歌詞の一体感が増す

「ゲシュタルト崩壊」という言葉を聞いたことがあると思います。漢字をずっと眺めていると、「こんな漢字あったけ?」と文字の構造が分からなくなることを言います。

このゲシュタルト崩壊は有名ですが、これとよく混同されがちな「意味飽和」というものも存在します。

ゲシュタルト崩壊が「こうえん」の「公園」が「ハム園」に見えてくるのに対して、意味飽和はそもそも「『こうえん』ってなんだっけ?」と意味が分からなくなることを指します。

私たちが稀に意味飽和を体験するのはなぜでしょうか?その効果は私たちにどんな影響を与えるでしょうか?意味飽和の研究からを考えてみましょう。

意味飽和とは

言葉の意味が分からなくなる「意味飽和」とは? 同じ言葉の繰り返しは人を気持ちよくさせる
(画像=Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

時折、既に知っているはずの言葉の意味が分からなくなることがありますか?

似たような経験をしたければ、同じ単語を連続で考えてみたり、連続で印字された単語を見つめてみたりしましょう。

例えば、「花」

野原の花、草むらの花……。花。花。花。花。花。

はな。はな。はな。はな。はな。はな。

はな。はな。はな。はな。はな。はな。

はな。はな。はな。はな。はな。はな。

はな。はな。はな。はな。はな。はな。

はな。はな。はな。はな。はな。はな。

さて、「はな」ってなんだったでしょうか?

このような意味の消失は「意味飽和(semantic satiation)」と呼ばれており、誰もが経験するものです。

この言葉は、1962年にハワイ大学社会科学部の心理学教授レオン・ジェームズ氏によって生み出されました。

意味飽和を探るジェームズ氏の実験

ジェームズ氏は、意味飽和の効果や原因を確かめるために様々な実験を行ないました。

彼の行なった初期の研究に、「寝ている猫に同じ言葉をかけ続ける」というものがあります。

猫は最初すぐに目を覚ましていましたが、何度も同じ言葉を繰り返されるうちに目を覚ますのが遅くなっていきました。

しかし、異なる言葉で呼びかけると猫はすぐに反応。つまり猫には同じ言葉に対する抵抗ができていったのです。

言葉の意味が分からなくなる「意味飽和」とは? 同じ言葉の繰り返しは人を気持ちよくさせる
(画像=Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

このような研究を続けたジェームズ氏は2015年に、「意味飽和は一種の疲労です。これは反応抑制と呼ばれます」と結論付けています。

反応抑制とは、同じ言葉が続いたときに、脳が反応を抑制する効果のことです。

通常、脳細胞が言葉に反応し、その意味を思い出すにはエネルギーが必要になります。

そして、回数が重ねられるごとに同じ言葉に反応するためのエネルギーが多く必要になります。更に繰り返されると、遂には数秒待たなければ脳が反応しなくなるのです。

このように、脳は同じ意味を何度も繰り返し引き出されることに抵抗感を持つようになるというのです。

更にジェームズ氏によると、単語によって意味飽和に陥る時間は異なるようです。

例えば、「爆発」などの劇的な言葉は、脳が集中して脳内の関連要素を循環するため、意味飽和になりづらいようです。

意味飽和は私たちに心地よさを与える場合がある

彼の研究は「意味飽和」がわたしたちを困惑させるだけのものではないことを示してきました。

その特徴的なものとして音楽が挙げられるでしょう。

私たちは気に入った曲を何度も繰り返し聴くのが好きです。実はこの時、「意味飽和」がプラスに作用しているのです。

米国アーカンソー大学音楽認知研究所の所長であるエリザベス・ヘルムス・マーグリス氏はAeon誌に次のように書いています。

「意味飽和は曲の歌詞において重要な役割を果たしています。コーラスの繰り返しによって単語やフレーズは飽和し意味を失います。

そして、このような意味飽和は、歌詞に対して新しい聴き方を可能にします。

言葉そのものは感覚的なものへと変換され、より直感的に歌詞と向き合うことを可能にするのです」

言葉の意味が分からなくなる「意味飽和」とは? 同じ言葉の繰り返しは人を気持ちよくさせる
(画像=Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

同じ歌詞を何度も聞き、口ずさむとき、その歌詞をより音楽の一部として楽しむことができるというのです。

これによって、リズムに乗ったり歌ったりすることをより魅力的なものと感じるようになるのです。

さて、ジェームズ氏の研究以外でも、意味飽和は今日様々な分野で分析されています。

例えば、マーケティング担当者は、広告に同じ言葉を使い続けることでその効果性が薄れていくことを知っています。「意味飽和」を考えることで、販売戦略を再考しているのです。

このように意味飽和は至る所に存在しており、時に私たちを困惑させ奇妙な思いを植え付けます。しかし、また時には心地よい経験を与えてくれることもあるのです。

脳の反応には不思議で奇妙な部分がたくさんあります。ジェームズ氏の研究は「意味飽和」をかなり掘り下げてくれましたが、この分野でさえ、まだまだ分析できることがありそうですね。

提供元・ナゾロジー

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