私たちは通勤やドライブ、また日常生活で自動車を利用します。環境によっては自動車の所持が必須だと考える人も多いでしょう。

しかし、アメリカ・カリフォルニア大学リバーサイド校の環境科学部に所属するデビット・ボルツ氏ら研究チームは、最近の研究で、カルフォルニア州の自動車内で許容レベルを超えた発がん物質を検知したと発表。

私たちが「新車のニオイ」として捉えていたものには、発がん性物質が含まれていたのです。

詳細は、1月29日付けの科学誌『Environment International』に掲載されました。

目次
「新車のニオイ」の原因
カリフォルニアの自動車内で発がん物質の許容値を越える

「新車のニオイ」の原因

「新車のニオイ」は発がん物質の匂いだった 20分の乗車で許容量を超えてしまう
(画像=新車のニオイの原因は揮発性有機化合物だった / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

新車に乗ったときに感じる「独特なニオイ」は、揮発性有機化合物(略称:VOC)やシート素材に含まれる成分が原因だと言われています。

このVOCとは、大気中に揮発する有機化合物の総称であり、ベンゼンやトルエン、またホルムアルデヒドなどを指します。

そしてこれらの化学物質は、プラスチックや接着剤、繊維、発泡体として自動車材料に使用されているのです。

「揮発性」という名前のとおり、ゆっくりと空気中に浸透したり、ホコリに付着したりします。

環境毒物学者であるボルツ氏もこの点を強調し、「これらの化学物質は揮発性が非常に高く、プラスチックや繊維から空気中に簡単に移動します」と述べました。

また、シートの種類によってはウレタン素材が使用されており、こちらにもアミンやホルムアルデヒドが含まれるのです。

当然、VOCは換気がなされていない車内で濃度を高めることがあり、私たちが「新車のニオイ」を感じたときには、化学物質も一緒に吸い込んでいることになるでしょう。

そのため研究チームは、それらの化学物質が運転手にどのような影響を与えるか調査しました。

カリフォルニアの自動車内で発がん物質の許容値を越える

新しい研究では、カリフォルニア州のドライバーがどの程度の化学物質を吸引しているか調査しました。

調査の元になったのは、「がんや出生異常を引き起こす化学物質」がリスト化されたカルフォルニア州法「プロポジション65」です。

研究では特に、車内で検出された5つの物質に焦点を当てており、結果として、そのうち2つの発がん物質(ベンゼンとホルムアルデヒド)が乗車20分後に許容レベルを超えると判断されました。

そしてドライバーの乗車時間が長くなればなるほど、危険性が高まるとのこと。

「新車のニオイ」は発がん物質の匂いだった 20分の乗車で許容量を超えてしまう
(画像=車内における1日の化学物質吸引量。下2つ(ベンゼン、ホルムアルデヒド)は許容レベルを超える / Credit:David C.Volz、『ナゾロジー』より引用)

もちろん、発がん物質が含まれているからといって、必ずしも健康に害が及ぶわけではありません。

発がん物質を吸っていたとしても許容レベル以下であるなら、がんを引き起こす確率は低いのです。

だからこそ、今回の研究はカリフォルニアのドライバーや製造業者に警告を与えるものとなりました。

頻繁に換気すること、乗車時間を減らすこと、またリスクの少ない材料を使用することなどが今後の課題だと言えるでしょう。

ちなみに、今回の研究はすべてアメリカ・カリフォルニア州で調査されたものであり、日本車内で発がん物質がどの程度検出されたかを示すものではありません。


参考文献

‘New Car Smell’ Is The Scent of Carcinogens, And Even Short Trips May Overexpose Us

元論文

Inhalation of two Prop 65-listed chemicals within vehicles may be associated with increased cancer risk


提供元・ナゾロジー

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