月の生み出す引力は微弱なものですが、それは地球の海と私たちの心をひきつけています。

海に潮の満ち引きが起こるのは、海の水が月の重力に影響されているためです。

しかし、ずっと地球に寄り添っている月も、実は毎年数センチずつ地球から遠ざかっていると言われています。

では、いずれ月は地球からいなくなって、宇宙を彷徨う天体になってしまうのでしょうか? そのとき地球の海はどうなってしまうのでしょう?

今回は、そんな離れていく月について解説していきます。

目次
月はなぜ地球から遠ざかっていくのか?
月が離れる原因は、自転と公転の速度差
いずれ月は地球からいなくなってしまうのか?

月はなぜ地球から遠ざかっていくのか?

現在地球を回る月軌道の直径は約76万8千キロメートルです。しかし、この距離は毎年3.8センチメートルずつ広がっています。 この月が実は地球から遠ざかっているという話は、有名なので聞いたことのある人も多いでしょう。 では、なぜそのようなことが起きるのでしょうか? この理由を知るためには、まず潮汐力というものについて理解する必要があります。 ### 潮汐力とは 潮汐力は、引力と似た意味を持っていますが、もう少し複雑な力のかかり方をしています。 重力は重力源から離れるほど弱くなってしまうため、空間に一様に働いてはいません。 そのため、地球のように巨大な物体に月の重力が影響した場合、月に近い正面方向は強く引っ張られますが、反対側はあまり引っ張られません。 これは一端を固定したゴムボールを、ぐにっと引っ張っているような状態です。 このとき、ゴムボールは前後に引き伸ばされますが、上下左右はつぶれた形になるのがイメージできるでしょうか?
『ナゾロジー』より
(画像=地球が月から受ける潮汐力。 / Credit:Krishnavedala / Wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)
このようにして、月の重力は上の図のように、地球に力を働かせています。 この重力源に対して正面方向は引き伸ばされ、側面方向は押しつぶされるような力の掛かり方を潮汐力と呼びます。 そして、潮汐力は地球の海に影響を及ぼしています。 潮汐というと、単に浜で見られる潮の満ち引きだけを想像する人が多いでしょうが、実はこのとき海は月の方向に膨らんでいて、それ以外の方向では潰れているのです。 では潮汐力がわかったところで、本題の月が地球から離れてしまう理由について考えていきましょう。

月が離れる原因は、自転と公転の速度差

ここでポイントとなるのは、地球の自転速度と月の公転速度の差です。 地球は誰もが知る通り24時間で1回自転しています。 一方、月は地球の周りを27.3日かけて1周します。 当然のことながら、地球の自転速度のほうが、月の公転速度よりずっと速い状態です。 ここでちょっと困ったことが起こります。 さきほど、地球の海は潮汐力で膨らんでいると話しましたが、この膨らんだ部分は地球の自転が速いために、月の正面よりややズレた位置に移動してしまうのです。 しかし、月と地球の重力的な影響は、この潮汐力で膨らんだ部分で繋がっているので、先行した膨らみは月を引っ張ってその公転速度を加速させます。 一方、月は膨らんだ海を引っ張って、地球の自転を減速させていきます
『ナゾロジー』より
(画像=地球の海の膨らみと月が繋がっているとイメージすると、両者の自転公転速度の差による影響がわかる。 / Credit:scienceabc,訳:ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)
そう、実は地球は月の影響で自転速度がどんどん減速していて、逆に月は公転速度をどんどん加速させているのです。 この影響で、地球の1日は10万年で1秒ほどの長くなると考えられています。 しかし、月は単純に公転速度を増やしていくことはできません。月が地球から一定距離を保ち続けるためには、安定した公転速度があるのです。 そこで、月は公転速度を上げる代わりに、公転軌道を広げていきます。 この現象は、角運動量保存の法則によって説明することができます。 角運動量保存の法則は、フィギアスケートの選手の動きを思い出すとイメージしやすいでしょう。 フィギアスケートの選手は、腕を広げているときはゆっくり回転しているのに、腕を内側に引き込んで体を縮めると、どんどん回転が加速していきます。 選手の腕の位置を、月の公転軌道として考えると、地球に近いほど速く回転して、離れるほどゆっくり回転することになります。 角運動量は回転半径、運動する物体の質量,回転速度の3つの値の積なので、このとき、角運動量は常に一定です。
『ナゾロジー』より
(画像=角運動量保存の法則。フィギアスケートの選手が腕を引き込むと回転速度が上がる。 / Credit:canva,ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)
つまり、外から力を受けて月の角運動量が増えた場合、物理的には公転速度を増やしても、公転半径を広げても、どっちでもいいのです。 このため、地球の自転に引っ張られた月は、一定の速度で地球の周りを公転し続けるために、軌道を広げる方を選択しました。 こうして月は徐々に地球から離れていくことになったのです。

いずれ月は地球からいなくなってしまうのか?

『ナゾロジー』より
(画像=ファイナルファンタジーⅣのエンディングでは、月が地球を離れて宇宙へ飛び去るシーンが登場する。 / ©1991 SQUARE ENIX CO., LTD.、『ナゾロジー』より 引用)

月が毎年地球から離れているという話を聞いたとき、ならいずれ月は地球からいなくなってしまうのか、と不安に思った人もいるでしょう。

しかし、実際はそのようなことは起こりません

前項で解説した通り、月が離れていくのは、地球に引っ張られて月の角運動量が増加していることが原因です。

そして、それが起きるのは、地球の自転が月の公転より速いためです。

けれど、地球の自転もまた、月に引っ張られて減速し続けています。

つまり、いずれ地球の自転と月の公転は同じ速度で一致して回るようになるのです。

そうなれば、もう月が地球から遠ざかる原因は失われます。月はかなり地球から離れるかもしれませんが、地球からいなくなることはないのです。

そして、このとき地球上では大きな変化が起こります。

そう、潮の満ち引きがなくなってしまうのです。

『ナゾロジー』より
(画像=潮の満ち引きは月の公転と地球の自転速度が異なるために起きている。 / Credit:気象庁、『ナゾロジー』より 引用)

潮の満ち引きは、月の公転速度と地球の自転速度が異なるために起こっています。

しかし、月の公転と地球の自転が一致してしまうと、地球の海は決まった形で固定されるため、もう満ち引きが起こらないのです。

では、それはいつになるのでしょうか? 計算すると、それは約500億年後です。

500億年後には、地球の海に満ち引きはなくなっているのです。

と言いたいところですが、おそらく、天文学に詳しい人はもう気づいているでしょう。

太陽の残り寿命は約50億年と考えられています。そのとき太陽は火星軌道まで膨らんだ赤色巨星となり、地球は飲み込まれてしまうのです

つまり500億年後の地球というものは存在しません。

長々と説明してきましたが、月が地球からいなくなるとか、地球から潮の満ち引きがなくなるとかいう以前に、太陽のほうが先に死んで太陽系が終わってしまうのです。

言い換えれば、月と地球は死ぬまで一緒ということになるでしょう。

参考文献
What Will Happen To Ocean Tides When The Moon Moves Away From Earth?(scienceabc)

提供元・ナゾロジー

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