あるトンデモナイ男性の症例が、1月11日に科学雑誌『Journal of the Academy of Consultation-Liaison Psychiatry』に発表されました。

その男性は、マジックマッシュルームのお茶を自ら静脈注射したことで、血中で真菌が増殖。多臓器不全に陥ったというのです。

一命はとりとめたものの、今回の症例は処方された以外の方法で薬を服用することの危険性や、使用法に関する正しい教育の必要性を訴えるものだと、報告者の医師は述べています。

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ネットのにわか知識で薬物使用

うつ病に効くと聞いて「マジックマッシュルーム茶」を静脈注射した男性の末路
(画像=マジックマッシュルームと呼ばれているキノコの一例。左上はミナミシビレタケ。右下はアイゾメヒカゲタケ。 / Credit:東京都福祉保健局、『ナゾロジー』より 引用)

マジックマッシュルームとは、麻薬指定されているサイロシビン(サイロシン)を含有した幻覚作用を持つキノコの総称で、通常毒キノコに分類されるものです。

これらのキノコは、かつて日本でも観賞用として合法的に入手可能だったため、合法ドラッグなどと呼ばれて取引されていたことがあります。

しかし、これを快楽目的で服用し、中毒や事故、死亡した事例まで報告されるようになったため、現在では麻薬原料植物として所持や取引は規制されています。

ただ、比較的簡単に手に入った時代があったため、ネット上にはこのマジックマッシュルームを摂取するための情報が溢れています。

今回報告された男性の家族は、彼が処方されていた双極性障害の治療薬の使用をやめ、うつ状態と躁状態の循環を悪化させていたと述べています。

そんな不安定な状態だった男性は、サイロシビンがうつ病や不安神経症、薬物乱用の有望な治療薬であるというネットの情報を見て、双極性障害とオピオイド依存症(鎮痛剤依存)の症状を緩和するために、マッシュルーム茶を静脈注射したようです。

たしかに「Neuropharmacology」に2018年に掲載された論文では、医師がキノコに含まれるサイロシビンを静脈内注射することで精神疾患の症状を緩和したなどの報告がされています。

しかし、当然これは医学的監督のもと厳重に管理された用量で使用され、真菌も含まれてはいません。

男性はこうした報告や、それを伝えるネット記事などを中途半端に理解して、マジックマッシュルームのお茶をこした液を静脈注射してしまったようなのです。

その結果は、非常に悲惨なものとなりました。

キノコ茶を静脈注射するとどうなるのか?

うつ病に効くと聞いて「マジックマッシュルーム茶」を静脈注射した男性の末路
(画像=キノコ茶を静脈注射すると何が起きるのか? / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

男性は無気力になり、吐き気を催し、皮膚が黄色く変色し、すぐに下痢や吐血を発症し始めました。

異変に気づいた家族は、すぐに彼を緊急治療室へ連れていき治療を受けさせましたが、精神状態に異常を来していて医師はまともな聞き取りを彼から行うこともできなかったといいます。

肝臓や腎臓を含む複数の臓器は機能しなくなっており、血液検査の結果、血中で菌が成長・増殖していることが確認されたのです。

その後、彼は肺の気嚢に水がたまり出し急性呼吸不全を起こして、人工呼吸器に繋がれました。

抗生物質と抗真菌薬を使った治療によって、なんとか一命はとりとめたもののその後も長期間の治療を必要としたようです。

なんとも愚かな話だとは思いますが、こうした危険は曖昧な知識による薬の利用で誰にでも起こりうる危険性があります。

市販の薬についても、頭痛がひどいという理由で、鎮痛剤のロキソニンを用量を無視して大量に飲み病院へ運ばれたという人もいます。

今回の違法な薬物使用もそうですが、医師の判断を仰がずに、独自の知識で誤った薬の摂取をすることは、非常に危険を伴います。

キノコ茶であっても命に関わる問題が発生することもあるのです。

現在はネットを利用することで、医師を経由せずに入手可能な薬も増えてきています。違法な薬物は論外ですが、個人輸入で手に入る栄養剤なども、結局はネットの知識だけを頼りに利用することになります。

この事件は極端な事例のように思えますが、誤った知識による薬の利用は、意外と身近に潜む危機なのかもしれませんね。

参考文献
livescience

ライター:KAIN
大学では電気電子工学、大学院では知識科学を学ぶ。ナゾロジーでは趣味で宇宙関連の記事を書くことが多いです。そして特に求められていなくても、趣味でアラフォーに刺さるアニメ、ゲームネタを唐突にぶっこむことも。 科学が進歩するほど、専門分野は先鋭化し、自分と無関係な知識に触れる機会が減ります。しかし、自分には解決の糸口も見えない問題が、ある分野ではとうに解決済みの話かもしれません。問題を解決させるのはいつでも新しい知識とのふれあいです。先人の知恵、最新の発見、それが誰かの抱える問題解決の助けになるよう、現在は科学ライターとして活動中。

編集者:やまがしゅんいち
高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?。

提供元・ナゾロジー

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