ヒツジの世界にも権力が横行していたようです。

UAEM大学(メキシコ)、ラ・レプブリカ大学(チリ)の最新研究によると、メスのヒツジは、自らに選択権がある場合、支配的なオスよりも従順な下位のオスとの交配を好むことが判明。

メスは大抵、支配的なオスに独占されていますが、本当は大人しくて優しいオスが好きなのかもしれません。

研究は、3月23日付けで『Applied Animal Behavior Science』に掲載されています。

目次
本当は優しくて大人しいオスが好きなのに…

本当は優しくて大人しいオスが好きなのに…

これまでの研究で、群れの中の支配的なオスは、下位のオスよりも遥かに多くのメスと交配することが分かっています。

支配的なオスは、メスへのアクセスが容易になることに加え、下位のオスよりも粗暴な交配行動を取る傾向にあるのです。

また、権力が強すぎるオスは、物理的に交配活動が追いつかず、精子不足に陥るケースもあると報告されています。

専門家は「もし精子不足にならなければ、こうした強い支配性は返って群れを存続の危機にさらすでしょう」と指摘します。

なぜなら、1頭のオスが交配を独占することで、子孫の遺伝的多様性が乏しくなるからです。

メス羊は選択権があると、支配的なオスより「下位の大人しいオス」をパートナーに選ぶことが判明
(画像=強権的なオスがメスを独占 / Credit: Michael Palmer/Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

一方で、支配的なオスの精子が枯渇すると、メスは下位のオスと積極的に関係を結ぶようになります。

そこで研究チームは「交配相手を選ぶ権利がメスにあるなら、最初から下位のオスを選ぶのではないか」と考え、調査を開始しました。

実験では、柵で仕切られた2つの区画を用意し、一方に支配的なオスを、もう一方に下位のオスを4頭ずつ置いて、メスに迫ることができないようロープに繋いでおきます。

次に、発情中のメス28頭を用意し、1回の実験で7頭ずつを区画の前に放ち、どちらのオスを選択するか観察しました。

同じ実験はメスのグループを変えて何度も繰り返されています。

その結果、ほとんどが常に下位のオスを選択しており、複数回の実験を通しても、4分の1のメスは支配的なオスとの交配を完全に拒絶していたのです。

メス羊は選択権があると、支配的なオスより「下位の大人しいオス」をパートナーに選ぶことが判明
(画像=下位のオスを積極的に選んでいた / Credit: jp.depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

また、支配的なオスを選んだとしても、下位のオスに比べて、交配行動の時間や回数が少ないことが判明しています。

反対に、下位のオスとの交配時間は支配的なオスの約2倍に達し、一緒に過ごす時間も平均して3倍になっていました。

明確な理由はまだ不明ですが、研究チームは「選択権がある場合、メスは群れの繁栄のために下位のオスとの交配を選ぶよう遺伝的にプログラムされているのではないか」と述べています。

と同時に、メスが単純に、強権的で粗暴なオスより、穏やかで紳士的なオスを好むとも考えられるでしょう。

平和に見えるヒツジの社会にも、権力にモノを言わせるハラスメントがはびこっているようです。


参考文献

Female sheep found to prefer less dominant males when mating

Nice Guys Come First If Female Sheep Get To Choose

元論文

Ewes prefer subordinate rather than dominant rams as sexual partners


提供元・ナゾロジー

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