喘息は小児期でもっとも一般的な慢性疾患と言われていますが、この喘息を予防する方法はまだわかっていません。

ところが1月14日に科学雑誌『European Respiratory Journal』に掲載された新しい研究は、イギリスの大規模な出生コホートのデータを調査した結果、オメガ3脂肪酸を多く摂取した子どもには、51%近くも喘息の発症リスクが低い傾向が見られたと報告しています。

オメガ3脂肪酸とは、サケやサバなど脂の多い魚や貝類に含まれる栄養素です。

ひょっとすると喘息予防には魚を多く食べることが有効かもしれないのです。

目次

喘息と食事の関係性
脂の多い魚が喘息の発症リスクを下げているように見える

喘息と食事の関係性

喘息は慢性的な気管支の炎症によって、気道が過敏になることで、気道自体が狭くなって発作的な咳や呼吸困難が起きる症状です。

サケなど「脂の多い魚」をたくさん食べると喘息のリスクが低下するかもしれない
(画像=喘息による気道の状態。 / Credit:全国健康保険協会、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究は、イギリスのクイーン・メアリー大学ロンドン校が主導する研究チームから発表されています。

イギリスでは現在、110万人(およそ11人に1人)の子どもが喘息を患っており、ほとんどの成人喘息は小児期から始まっています。

日本でも喘息の患者数は、30年間で約3倍近く増加していると言われていて、問題視されている病気の1つです。

特に喘息は小児期の発症が多く、子どもの喘息を予防する方法については関心が高まっています。

これは日本の場合のデータですが、やはり子どもに喘息の患者数は多くなっています。

サケなど「脂の多い魚」をたくさん食べると喘息のリスクが低下するかもしれない
(画像=年齢別喘息患者数。 / Credit:J-Stage,山内 康宏「気管支喘息の疫学:現状と近未来」、『ナゾロジー』より引用)

喘息に対して、現在予防する方法はわかっていませんが、食生活と発症リスクの関連性が指摘されています。

しかし、これまでの研究では短期的な食事と喘息の関係を調査したものがほとんどで、長期的な影響を見たものはありませんでした。

そこで、今回の研究では、1990年初頭から行われている英国の大規模出生コホートのデータを使用して、誰が喘息を発症し、誰が発症しなかったかの関連を調査したのです。

このデータでは、妊娠した母親から子どもの成長まで何年にも渡って長期の追跡調査を行っています。

研究チームが着目したのは、魚でした。

魚は抗炎症作用を持つ長鎖オメガ3脂肪酸、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の豊富な供給源であり、特に興味深いものです。

しかし、現在イギリスでは、魚の推奨摂取量を達成している人はほとんどいません。

そこでチームは、食物摂取頻度のアンケートデータと、11~14際のときの医師の診断をもとにこのオメガ3脂肪酸と喘息の発生率の関連を分析したのです。

脂の多い魚が喘息の発症リスクを下げているように見える

調査された人数は、コホート全体で4.543人の子どもがいました。この調査の結果、喘息とオメガ3脂肪酸摂取の関連は見つかりませんでした。

しかし、ここでチームは子どもの持つ特定の遺伝子変異に着目したのです。

それは血中の低レベルのオメガ3脂肪酸に関連する、脂肪酸デサチュラーゼ(FADS)遺伝子の変異体です。

調査の結果、子どもたちの半数がこの遺伝子変異体を持っていることがわかりました。

そして、この子どもたちに限定して、再度分析を行ったところ、オメガ3脂肪酸の食事摂取量が多いほど、子どもの喘息リスクが低下していることが確認されたのです。

これは、魚を食べる家庭の子供とそうでない子どもとの間で、喘息の発症に51%もの差が認められました。

この結果は、さらにスウェーデンで行われた出生コホート研究でも同様に発見されました。

もちろん、この研究は観察的な関連性を発見しただけのもので、そこに明確なメカニズムを特定したわけではありません。

また、その関連性も特定の遺伝子変異を持つ子どもに限られたもので、それを考慮しない場合には、特に関連性を見つけることはできません。

研究者はこの結果が、魚を多く食べれば喘息を予防できるわけではないと警告を述べています。

しかし、オメガ3脂肪酸の血中濃度が低い子どもについては、オメガ3脂肪酸の摂取量が有益な効果を及ぼしているようです。

サケなど「脂の多い魚」をたくさん食べると喘息のリスクが低下するかもしれない
(画像=サケなど油の多い魚の摂取が喘息リスクを低減するかもしれない。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

オメガ3脂肪酸はEPAやDHAなど、一般的にも体にいいことが知られている栄養素であり、週に1回以上魚を食べる人の心臓病や脳卒中の発症リスクが減ることが、研究から確認されています。

またオメガ3脂肪酸はうつ病などの気分障害を減らすという報告もあります。

オメガ3脂肪酸は、サケやマグロ、イワシなどに多く含まれ、カニやムール貝、カキなどの貝類にも含まれています。

これら魚介類を積極的に取ることのメリットは、現在でも数多く報告されているため、子どもの頃から積極的に食べるように心がけることは、重要なことかもしれません。


参考文献

Queen Mary University of London

元論文

Intake of n-3 polyunsaturated fatty acids in childhood, FADS genotype, and incident asthma


ライター・KAIN、編集者・やまがしゅんいち/提供元・ナゾロジー

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