賢い動物の筆頭としてよくチンパンジーやカラス、イルカが挙げられますが、その中に「馬」が入ることはあまりありません。

そのため、馬が「自己認識(self-awareness)」の能力をもっていると聞くのは驚きでしょう。

イタリア・ピサ大学はこのほど、馬が鏡に映った自分の姿を認識できることを新たに発見しました。

しかも、馬は種として自己認識力をもつ可能性があるとのことです。

研究は、3月13日付けで『Animal Cognition』に掲載されました。

目次
自己認識力を確かめる「ミラーテスト」とは
馬は「種として」自己認識力をもっていた⁈

自己認識力を確かめる「ミラーテスト」とは

鏡を初めて見る動物は、しばしば社会的な反応を示します。

まるで鏡に映った自分が他の仲間であるかのごとく振る舞うのです。

社会的反応はしばらくすると治まり、大半の動物はこの時点で鏡に興味を失いますが、わずかながら鏡を調べ続ける動物もいます。

この時、専門家が、鏡に対する一連の社会的反応を終えた動物に試す実験が「ミラーテスト(またはマークテスト)」です。

ウマは鏡に映った「自分」を認識できる! ウマの個体差によらず「種として」自己認識力をもつ可能性も
(画像=鏡をのぞき込むヒヒ、Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

ミラーテストは、1970年に心理学者のゴードン・ギャラップJr.が開発した調査法で、動物が鏡を通して自己認識力をもっているかどうかを調べます。

手順は以下の通り。

・自ら見ることのできない体の部位に、塗料やステッカーでマークを付ける

・その動物を鏡の前に立たせる(マークは鏡ごしにのみ見ることができる)

・もしマークに触れたり、剥がそうとすれば、その動物は鏡像を自分のものと意識していることになる

ミラーテストはこれまで多くの動物で試されましたが、自己認識力があると見なされたのは、霊長類を除くと、バンドウイルカ4頭、カササギ2羽、アジアゾウ1頭のみです。

さらに、ミラーテストをクリアしたこれらの動物は、知能の高い個体に限られており、種全体に見られたわけではありません。

そこで研究チームは、馬が鏡にどう反応するかをテストしました。

馬は「種として」自己認識力をもっていた⁈

研究チームは、用意した実験場の中に馬の全身が映る大きな鏡を設置。

14頭の馬を対象に、それぞれが鏡に慣れて一連の社会的反応をしなくなった後、ミラーテストを開始しました。

馬の頬には、医療用の特殊な色つきゲルを使って十字マークを施し、これは鏡なしでは見られません。

また、無色のゲルで同じ十字マークを施した条件でも実験しました。

ウマは鏡に映った「自分」を認識できる! ウマの個体差によらず「種として」自己認識力をもつ可能性も
(画像=実験状況、幅1.8メートルの鏡を設置、Credit: link.springer、『ナゾロジー』より引用)

その結果、11頭の馬が自らの頬についた十字マーク(色あり)を認識し、その部位をこすり始めたのです。

頬をこする時間は、無色のゲルの時に比べ、約5倍にまで増えていました。

研究主任のパオロ・バラグリ氏は「これは馬が『自分の頬に』十字マークが付いていることを正確に理解し、剥がそうとしている証拠と言える」と述べています。

ウマは鏡に映った「自分」を認識できる! ウマの個体差によらず「種として」自己認識力をもつ可能性も
(画像=実験の様子、Credit: BARAGLI, P., SCOPA, C., MAGLIERI, V. ET AL.、『ナゾロジー』より引用)

ウマは鏡に映った「自分」を認識できる! ウマの個体差によらず「種として」自己認識力をもつ可能性も
(画像=十字マークを自分の頬に付いたものと認識、Credit: BARAGLI, P., SCOPA, C., MAGLIERI, V. ET AL.、『ナゾロジー』より引用)

また、興味深いのは、14頭のうち11頭が同じ反応を示したことであり、馬が自己認識力を種としてもっている可能性を示唆します。

賢い個体に限られないという点では、馬が唯一かもしれません。

11頭の馬の中には、鏡に向かって舌をペロッと突き出し、その様子をジッと眺めているものもいたようです。

アインシュタインも舌を巻く賢さ、といったところでしょうか。

参考文献
Horses can recognise themselves in a mirror – new study

元論文
If horses had toes: demonstrating mirror self recognition at group level in Equus caballus

提供元・ナゾロジー

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