孤独も賢さも腸内細菌と関係があるようです。

3月25日に『Human Microbiome Journal』に掲載された論文によれば、腸内細菌叢が多様性を持つほど、孤独を感じにくく、賢くなるとのこと。

腸内細菌叢は腸内フローラともいわれ、腸内に存在する微生物の集まりを意味します。

しかし、どうして孤独や賢さが、腸内細菌叢と関連しているのでしょうか?

目次

孤独や知恵などの複雑な精神活動すら腸内細菌叢と関係があると判明!
多様な腸内細菌叢は多くのメリットをもたらす
腸内細菌叢の多様性を増やす方法
孤独感を胃腸薬で治す時代が来るかもしれない

孤独や知恵などの複雑な精神活動すら腸内細菌叢と関係があると判明!

「腸内細菌」の多様性がある人ほど「孤独を感じにくく、賢くなれる」と判明
(画像=孤独感や賢さは腸内細菌叢の多様性と関係があると判明! 、 Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

近年の研究により、脳機能と腸内細菌叢が非常に密接に関連することが明らかになってきました。

腸内細菌叢は神経調節・ホルモン分泌・免疫力といった体の健康にかかわるだけでなく、開放性・協調性・誠実性といった人格特性、ストレス・同情心・共感能力・幸福感といった精神的な作用にも影響することが判明しています。

これらの結果は、脳と腸が自律神経やホルモン、神経伝達物質や免疫分子などを介して緊密に関連している(脳腸相関がある)ためであり、脳の状態が腸に影響し、腸の状態もまた脳に影響するからです。

さらに最新の動物実験では、腸内細菌叢を交換することが、動物の社会的活動を増やしたり減らしたりすることも判明しています。

そこで今回、カリフォルニア大学の研究者たちは新たに、人間にとって重要な要素である「孤独感」および「賢さ」と腸内細菌叢の関連性を調べることにしました(ここで言う賢さの定義とは「高度な認知機能と高い感情調節力」をさします)。

一見すると「孤独感」と「賢さ」は無関係にみえますが、心理学の世界では古くから、孤独を感じない人ほど賢く、賢い人ほど孤独を感じにくいという不思議な関係が知られていました。

研究者たちは、この不思議な関係もまた、腸内細菌叢と関連していると仮説を立て、実証しようと試みました。

はたして孤独感や知恵といった複雑な精神活動も、腸内細菌叢とかかわっているのでしょうか?

多様な腸内細菌叢は多くのメリットをもたらす

「腸内細菌」の多様性がある人ほど「孤独を感じにくく、賢くなれる」と判明
(画像=孤独感が高い人ほど腸内細菌叢の多様性が低かった 、Credit:Human Microbiome Journa、『ナゾロジー』より引用)

孤独の感じやすさや知恵といった複雑な人格特性が腸内細菌叢と関連があるのか?

疑問を確かめるために研究者たちは184人の被験者の腸内細菌叢を調べると共に、知恵の深さや孤独感の強さ、思いやりの心、社会的関与の様子などを記録しました。

結果、意外な事実が判明します。

より賢く、思いやりが強く、社会に積極的に関与している人ほど、多様な腸内細菌叢を持っていることがわかったのです。

また孤独感については、特に年齢が高い層において、多様な腸内細菌叢を持っている人ほど、孤独を感じにくいことがわかりました。

この結果は、古くから知られていた孤独と賢さの不思議な関係が、腸内細菌叢を介して証明されたことを示します。

ただ今回の研究では、賢くなったり孤独を感じなくなったりすると腸内細菌叢が多様化するのか、腸内細菌叢が多様化すると賢く・孤独を感じなくなるのかまでは断言できませんでした。示されたのは関連性のみだったからです。

しかし研究者たちは、おそらくどちらもある、と考えています。

つまり、賢くなったり、孤独を感じなくなるようにするために、まず腸内細菌叢から多様化させるという手段は、間違ってはいないということです。

そうなると、気になるのが腸内細菌叢の多様性の増やし方です。

ヨーグルトや善玉菌を飲めば多様性は増えるのでしょうか?

腸内細菌叢の多様性を増やす方法

「腸内細菌」の多様性がある人ほど「孤独を感じにくく、賢くなれる」と判明
(画像=納豆などの発酵食品は多様な栄養素を含む、Credit:Canv、『ナゾロジー』より引用)

腸内細菌叢の多様性を増やすにはどうすればいいか?

答えは「多様な食べ物を食べる」に尽きます。

腸内に住む細菌たちはそれぞれ自分の好みとする栄養源があります。

ある細菌は糖を好み、また別の細菌はタンパク質を好み、さらに他の細菌は食物繊維を好む…といった感じです。

そのため腸内細菌叢を多様化させるには、多種多様な腸内細菌のニーズを満たす、食材のバリエーションを持たせることが必要になります。

「一日30種類の食べ物をたべるようにするといい」という古くから言われてきた言葉は、腸内細菌叢の管理を行う上でも実に正しかったのです。

とはいっても、多様な食材を食べるのは面倒です。

そこで次善の策として考えられるのは、発酵食品や食物繊維です。

発酵食品には極めて多くの栄養源が含まれており、腸内細菌たちの幅広い要求にこたえることができます。

また食物繊維が有効なのは、食物繊維をエサとする腸内細菌が極めて多種にわたるからです。

孤独感を胃腸薬で治す時代が来るかもしれない

「腸内細菌」の多様性がある人ほど「孤独を感じにくく、賢くなれる」と判明
(画像=寂しさに効く腸内細菌が特定できれば寂しさを鎮める胃腸薬ができるかもしれない、Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により、孤独感や賢さといった複雑な精神活動が、腸内細菌叢の多様性と関連していることがわかりました。

もし今、多くの友達に囲まれ、恋人と楽しい時間を過ごしているにもかかわらず「孤独感」を感じているのならば、それは腸内細菌叢の多様性が失われているからかもしれません。

またいくら勉強しても結果がいまいちな場合も、腸内細菌叢が関連しているからかもしれません。

研究者たちは今後、特定の精神活動に関連する腸内細菌叢のパターンを解明し、より確実な脳と腸内細菌叢の関係を探っていくとのこと。

もし成果があれば、未来の世界では、賢くなる菌サプリや孤独を癒す胃腸薬が売られているかもしれませんね。

参考文献
TWO CRITICAL EMOTIONAL STATES ARE INFLUENCED BY GUT HEALTH — STUDY
Wisdom, Loneliness and Your Intestinal Multitude

元論文
Association of Loneliness and Wisdom With Gut Microbial Diversity and Composition: An Exploratory Study

提供元・ナゾロジー

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