有名人や起業家による寄付は、その額の大きさから度々話題になります。

ではそのようなお金持ちの寄付は、実際に誰を助けているのでしょうか?

イギリス・バース大学経営学部に所属するマイリ・マクリーン氏ら研究チームは、富裕層の慈善活動に関する263の雑誌記事、書籍、研究をメタ分析し、彼らの寄付が社会に与える影響を発表しました。

その結果によると、お金持ちの寄付の主な対象は富裕層であり、貧困層を助けるというよりは、富裕層との良い関係を生み出すものだったとのこと。

研究の詳細は、2月21日付の学術誌『International Journal of Management Reviews』に掲載されました。

目次
金持ちの慈善活動の目的とは?
富裕層の寄付のほとんどは、貧困層ではなく富裕層内部を循環している

金持ちの慈善活動の目的とは?

お金持ちが寄付するのは富裕層の支持を得るためかもしれない
(画像=富裕層の寄付の主な対象は、自分に何らかの利益をもたらすものだった / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

現在、世界中で貧富の差が大きくなっています。

例えば、アメリカでは1980年以降、富裕層と貧困層の差が2倍以上に拡大。

またイギリスの収入層をそれぞれ5つのグループに分けた場合、最も裕福なグループと最も貧しいグループでは、平均所得に12倍もの差がありました。

こうした背景にあって、私たちは「富裕層が多額の寄付をした」というニュースを聞くことがあります。

ほとんどの人は「富裕層の寄付とは、貧富の差を埋めるために行われている」と考えるでしょう。

ところがマクリーン氏らの報告によると、それら富裕層は主に「自分たちに何らかの利益をもたらす活動に対して寄付している」とのこと。

彼らの慈善活動の動機には、「権力を維持することも含まれている」のです。

実際、アメリカの194人の「エリート慈善家」を対象とした調査では、そのうち104人が公共政策に影響を与えるために、研究機関および擁護団体に資金を提供していたと判明しています。

富裕層の寄付のほとんどは、貧困層ではなく富裕層内部を循環している

研究者たちは、富裕層の寄付が社会全体にとって有益であることを認めていますが、現在の状況では、中程度の再分配効果しかありません。

資金の大部分は発展途上国の疾病予防などではなく、先進国や富裕層内部を循環するだけです。

実際、お金持ちの寄付によって最大の恩恵を受けているのは、すでに多額の基金をもつハーバード大学やオックスフォード大学とのこと。

もちろん最先端の研究が促進されるため、この寄付には大きな意味があります。

しかし全体として、富裕層の寄付が非営利団体を助けることはほとんどありません。非営利団体の収入のうち、寄付が占める割合はわずかなのです。

お金持ちが寄付するのは富裕層の支持を得るためかもしれない
(画像=寄付は富裕層の間で循環する / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

ですから、論文著者のひとりであるイギリス・ニューカッスル大学のチャールズ・ハーヴェイ氏は、次のように結論付けています。

「富裕層の慈善活動とは、自分に直接利益を与えた機関を支援すると共に、彼らが社会の他の部分に影響力を持てるようにするためのものである」

またマクリーン氏は次のように述べています。

「今回の調査は、裕福な慈善家の寄付を辞めさせようとするものでも、彼らの寄付から良いものが生まれないと主張するものでもありません」

「確かに裕福な人の中には、重要な活動を支援する素晴らしい人々がいます。しかし私たちは、こうしたことを組織的な観点で見ており、全体としては多くの改善が可能です」

今回の研究結果は、富裕層の寄付が貧富の差を埋めていないことを明らかにしています。寄付は、「目的」や「寄付する相手」が重要なのです。

現代では「〇〇基金」や「クラウドファンディング」、また「個人的にお金を配る」などの様々な寄付・支援形態があるようです。

では、そのうち貧困層を助ける寄付はどれほど存在しているのでしょうか。


参考文献

Elite philanthropy mainly self-serving

元論文

Elite philanthropy in the United States and United Kingdom in the new age of inequalities


提供元・ナゾロジー

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