今、私たちにできるアンチエイジングとは老化を遅らせることですが、新しい研究ではついに老化プロセスの逆転に成功したと言われています。
イスラエル・テルアビブ大学神経科学部のシャイ・エフラティ准教ら研究チームは11月18日付けの学術誌『Aging』で、高圧酸素療法によってテロメアの伸長と老化細胞の減少に成功したと発表。
老化プロセスにおける2つの大きな要素を生物学的に逆転させたことは、私たちとって夢だった「若返り」という扉に手をかけたことになります。
目次
老化プロセスのカギである「テロメア」と「老化細胞」
高圧酸素療法で老化プロセスの逆転を狙う
世界で初めて生物学的な老化プロセスの逆転が成功
老化プロセスのカギである「テロメア」と「老化細胞」
人の老化に注目すると、科学者たちは細胞分裂とテロメアという1つの老化プロセスに辿りつきます。
生物は細胞分裂によって常に新しい細胞と古い細胞を入れ替えることができます。
しかし、細胞分裂の回数には限界があって、ある時から新しい細胞が生まれなくなるのです。
そのため古い細胞つまり老化細胞が身体全体を占め、機能が低下。これが老化プロセスの1つだと考えられています。
そしてこの細胞分裂の限界を決めているのがテロメアです。
テロメアは生物の染色体の両端にあり、細胞分裂が行われるたびに少しずつ短くなります。そして一定の短さになると細胞分裂が不可能になるため、その細胞は老化細胞になるのです。
ちなみに細胞分裂の回数が決まっているということは、このサイクルを早めないことも可能。
細胞にダメージを与えると回復するために高頻度で細胞分裂を繰り返します。つまり、「細胞にダメージを与えない」生活方法で老化を遅らせることはできますし、これが現代の主なアンチエイジングなのです。
高圧酸素療法で老化プロセスの逆転を狙う
さて、細胞分裂の限界を決めているのがテロメアですから、このテロメアを伸長させる方法を確立するなら、細胞分裂の観点では「若返り」が可能になります。
科学者たちが様々な方法でテロメアを伸長させようとしている中、エフラティ氏らは高圧酸素療法でこれを実現しようとしたのです。
高圧酸素療法とは、通常の大気圧よりも高い気圧環境の中で酸素を吸入する療法です。
この療法により通常の約10倍にまで酸素を体内に取り込むことが可能であり、細胞機能の改善、組織修復の効果があるとされています。
研究チームは世界最大の高圧酸素治療センターであるShamir Medical Centerと協力して、ライフスタイル・食事・投薬の調整を受けていない64歳以上の健康な成人35人を対象とした高圧酸素治療実験を行ないました。
その実験では、各参加者が90日にわたって1日90分の高圧酸素治療を受けました。
世界で初めて生物学的な老化プロセスの逆転が成功
実験の結果、参加者のテロメアの長さが治療前に比べて20%以上大幅に増加したと判明。これは参加者のテロメアが25年前と同じくらいの長さに戻ったことを意味するようです。
さらに重要なこととして、この実験により参加者の老化細胞が最大37%も減少していたのです。
実はヒトのテロメアが伸長したのはこれが初めてではありません。例えば最近の研究では長期の有酸素トレーニングによりテロメアが最大5%増加しています。
しかしこのような研究のほとんどは、テロメアと抗酸化の関連を示したものであり、老化プロセスの逆転とは言えないでしょう。
対して今回の研究は、3ヵ月という短い期間で、テロメアの大幅な伸長、また老化細胞の大幅な減少が認められたという「老化プロセスの逆転」です。ここまではっきりとした成果が表れたのは世界で初めてだと言えるでしょう。
もちろん、老化細胞とテロメアだけが個体の老化に関係するとは言い切れませんから、現段階では「若返り」を達成したとは到底言えません。それでも若返りの扉に手をかけたことは確かであり、更なる研究と成果が期待されます。
参考文献
prnewswire
提供元・ナゾロジー
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