いきなり魔王としたが、これはマーラ(魔羅、Māra)という悪魔のことである。サンスクリット語では「殺すもの」や「死に至らすもの」など、非常に攻撃的な名前を持つ。

このマーラが登場するシーンとしては、釈尊が悟りに至る、菩提樹の下で瞑想しているのを邪魔しにくるものが有名だ。マーラの名には先ほどの尖ったものの他にも「煩悩」などの意味も持ち、すなわちその化身でもある。釈尊が悟りに至ってしまうのは煩悩の化身としては非常にまずいわけで、当然ながら妨害を試みる。

まずは、自らの3人の美しい娘を使って心を乱そうとする。この3人の名はアラティ(嫌悪)、ラガー(貪り)、タンハー(渇愛)で、人間の根本的な迷いの部分を意味する。

しかし、釈尊はそれにも動じなかったため、続いて怪物に襲わせたり、マーラ自ら脅しをかけるが効果は無く、釈尊は悟りに至る。

仏教の魔王の乗り物のポンコツ性能とは何?
(画像=仏陀に攻めかかるマーラ、『QUIZ BANG』より引用)

そんなマーラだが、登場するときは黒いゾウに乗っている。このゾウをギリメカラといい、150由旬(これまで通り7km換算だと1050km)という大きさの怪物とされる。

ギリメカラはいきなり沸いて出たものではなく、『ヴェーダ』におけるインドラが乗るアイラーヴァタ(こちらは白い)が悪魔に転じたものとも考えられ、そちらのアイラーヴァタの名で呼ばれることもある。このあたりの背景にはインドとスリランカの対立などもあるようだ。

ところで、このギリメカラはゲームなどにも登場するので名前くらいは聞いたことがある人もいるだろう。特に『真・女神転生』シリーズでは、物理攻撃を反射するという厄介な特性を持っているため、うかつな操作で大打撃を受けた経験を持つ人もいるだろう。

ゲームでは一癖ある強敵だったりもするのだが、ギリメカラはマーラとともに登場すると、あるお約束に縛られてしまう。それは、釈尊の前では必ず転ぶというものだ。

仏典のひとつで、釈尊の前世などを描いた『ジャータカ』では、菩提樹の下の釈尊のもとへマーラはギリメカラに乗って脅しに来るのだが、ギリメカラは跪いてしまう。これは説話では他にも見られるシーンで、巨大なゾウは毎度吉本新喜劇よろしく跪き、マーラが転ぶのがお約束となっている。

さっさと乗り物を変えてしまえばいいものの、いつまでもお約束に縛られている魔王というのも、想像するとちょっと憎めない存在になってしまう。これは、そんな存在にも救いの道を示す仏教らしいといえば仏教らしいのかも知れない。

文・遠藤和成/提供元・QUIZ BANG

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