三葉虫は4億5000万年前の海に生息していた生き物です。
現在は残っていない古代の生き物は、化石しか残っていないため、柔らかい組織でできていた体の器官については詳しくわかっていません。
三葉虫は水の中で生活していましたが、彼らがどの様に呼吸していたかも、よくわかっていませんでした。
しかし、カリフォルニア大学の研究チームは、非常に珍しい三葉虫の化石と、最新のテクノロジーを使って、三葉虫が太ももにあたる位置にエラ似た呼吸器官を持っていた証拠を発見したと報告しています。
この研究は3月31日付けで科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。
三葉虫の呼吸器官
三葉虫は約4億5000万年前に地球上に現れた海の生き物で、恐竜よりも長い2億5000万年以上の期間を生き続けました。
これは海洋生物のグループにおいて、進化の面で大成功を収めた生物と言えます。
しかし、そんな三葉虫もオルドビス紀末に訪れた大量絶滅期に、絶滅してしまいました。
そのため、現代で確認できるのは彼らの化石だけです。
通常化石には軟組織は残らないため、三葉虫の体の器官がどうなっていたのか詳しいことはわかりません。
これまでは、現代にも生きている甲殻類の節足動物と非常に類似点が多いことから、それらを参考に彼らの生態や機能を推測していました。
こうした中で、謎となっていたのが、三葉虫はどうやって呼吸していのかという点です。
三葉虫は非常に長い期間生存していたため、非常に多くの種が存在していました。化石で発見されているだけでも2万2000種以上もあります。
そのうち、軟組織が見られたのは約20種程度です。
これらは愚か者の金と呼ばれる黄鉄鉱に保存されていました。
黄鉄鉱の化石では、CTスキャナーによって周囲の岩石との密度の違いを読み取ることができ、それを元にしてめったに見られないエラ構造の3次元モデルを制作することができたのです。
「愚か者の金と呼ばれていますが、これらの古代の構造を理解する鍵となる黄鉄鉱は、金より貴重です」と、カリフォルニア大学リバーサイド校の地質学教授ナイジェル・ヒューズ氏は述べています。
こうした貴重な黄鉄鉱に保存された三葉虫の化石と、最新のスキャン技術によって、顕微鏡でさえ見ることの難しい三葉虫の小さな解剖学的構造が明らかになりました。
その結果、三葉虫には上肢の太ももにあたる部分に、エラに似た構造がぶら下がっていたということがわかったのです。
変な場所にある三葉虫のエラ
CTスキャンによる調査は、顕微鏡でも見ることが難しい、幅10~30マイクロメートルという三葉虫の小さな構造を明らかにすることに成功しました。
ちなみに髪の毛の太さは100マイクロメートルです。
三葉虫は、現代の甲殻類と同じ様に上肢と下肢に脚がわかれていますが、上肢の部分にエラを持っていました。
こうして研究者たちは、三葉虫がどのようにして血中に酸素を取り込んでいるかを知ることができました。
このエラは、現代のカニやアカザエビとほとんど同じ様に見えるといいます。
ただ、三葉虫の下肢で獲物を捕まえ、上肢は泳いだり、地面を掘ったりするために使われていたと考えられています。
三葉虫は海底を這うように歩いていたと考えられ、そのために上肢は使われていました。
そのため、上肢が呼吸器の最適な場所とは考えられません。研究者によると、この部位にエラがあったら、すぐに堆積物で詰まってしまうだろうといいます。
なぜ、彼らがそのような場所に呼吸器の構造を進化させたのかは未解決の問題です。
ただ、古代の生物の呼吸器に関する知識が得られたという発見は、古代の地球大気の変化を理解するために、非常に重要な手がかりになります。
地球上の生命は約5億4000万年前爆発的な多様性と複雑さを獲得しました。
これらの動物には酸素が必要だったため、理論的には彼らの呼吸器の変化は、地球の酸素量の上昇と関連づいているに違いありません。
現代の私たちには、太古の地球の大気を測定する手段はほとんどありません。
今回の研究成果は、そんな太古の地球の大気環境の調査を大きく躍進させる助けになるだろうと、研究者は語っています。
参考文献
450-million-year-old sea creatures had a leg up on breathing(UC RIVERSIDE)
元論文
The trilobite upper limb branch is a well-developed gill
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功